起業時に入るべき保険一覧|賠償責任・火災・所得補償の選び方ガイド

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起業の準備に追われていると、つい後回しにしがちなのが「保険」の検討です。しかし、事業を始めてから想定外のトラブルに見舞われたとき、適切な保険に加入していなければ、最悪の場合、事業の継続そのものが危うくなります。

実際に、取引先への損害賠償で数百万円を請求されたケースや、自然災害でオフィスの設備が使えなくなったケース、経営者自身のケガや病気で収入が途絶えたケースなど、起業家を取り巻くリスクは多岐にわたります。

本記事では、起業時に検討すべき保険を網羅的に紹介し、それぞれの保険がどのようなリスクに対応しているかをわかりやすく解説します。個人事業主・法人それぞれの観点から、優先順位の付け方や選び方のポイントもお伝えしますので、ぜひ起業準備のチェックリストとしてお役立てください。

起業家が保険に入るべき理由とリスクの全体像

起業家が保険を検討すべき最大の理由は、会社員時代と比べてリスクの負担が大きく変わるからです。会社員であれば、業務中の事故やトラブルは基本的に会社が責任を負い、健康保険や労災保険も手厚く整備されています。しかし、起業した瞬間から、事業上のリスクはすべて自分自身が引き受けることになります。

起業家を取り巻く主なリスク

起業家が直面しうるリスクは大きく以下の4つに分類されます。

第一に「対人・対物リスク」です。提供した商品やサービスによってお客様や取引先に損害を与えてしまった場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。例えば、IT企業がシステム障害を起こして顧客の業務を停止させた場合や、飲食業で食中毒が発生した場合などが該当します。

第二に「財産リスク」です。オフィスや店舗の火災、水害、地震などの自然災害や、盗難による損失がこれにあたります。特に高額な設備や在庫を保有している事業では、一度の被害で甚大な損失を被る可能性があります。

第三に「人的リスク」です。経営者自身や従業員のケガ、病気、死亡といったリスクです。特に起業初期は経営者が事業の要であり、経営者が働けなくなると即座に収入が途絶えます。

第四に「経営リスク」です。売上の急減、取引先の倒産による売掛金の回収不能、サイバー攻撃による情報漏洩など、事業運営そのものに関わるリスクです。

保険で備えることの経営的意義

保険料は固定費として毎月の支出に上乗せされるため、起業初期はつい節約したくなります。しかし、保険はいわば「最悪のシナリオに対する安全装置」です。万が一の際に数百万円〜数千万円の損害を自費で賄わなければならない状況を想像すると、月額数千円〜数万円の保険料は合理的な投資といえます。

また、保険に加入していること自体が取引先や金融機関からの信用向上にもつながります。特に法人化を検討している場合や、BtoB取引が中心の事業では、適切な保険加入が取引条件に含まれることも少なくありません。

賠償責任保険の種類と選び方

賠償責任保険は、事業活動に起因して第三者に損害を与えた場合に備える保険です。起業家にとって最も優先度の高い保険の一つです。

施設賠償責任保険

施設賠償責任保険は、事業所や店舗の管理上の不備が原因で第三者に損害を与えた場合に補償する保険です。例えば、店舗の看板が落下して通行人にケガをさせたケースや、店内で水漏れが発生して来店客の荷物を汚損したケースなどが対象になります。

実店舗を構える事業はもちろん、オフィスに顧客を招くことがある事業でも加入を検討すべきです。保険料は事業の種類や施設の広さによって異なりますが、年間1万円〜5万円程度が一般的です。

生産物賠償責任保険(PL保険)

PL保険は、製造・販売した製品や、提供したサービスに起因して顧客や第三者に損害が発生した場合に備える保険です。食品製造業、化粧品販売、建設業など、有形の製品を扱う事業では必須といえます。

近年はIT業界でも重要性が増しています。納品したソフトウェアの不具合によって顧客に損害が生じた場合、PL保険の対象となる商品があります。ただし、IT関連のリスクについては後述する「専門職業人賠償責任保険」の方が適切な場合もあるため、事業内容に応じた選択が必要です。

専門職業人賠償責任保険(E&O保険)

E&O保険(Errors and Omissions Insurance)は、専門的なサービスの提供において、過失や不作為によって顧客に損害を与えた場合に備える保険です。コンサルタント、IT企業、士業、デザイナーなど、専門知識やスキルを提供する事業に適しています。

例えば、ITコンサルタントの助言に基づいて導入したシステムが機能せず顧客に損害が生じた場合や、税理士が申告ミスをして顧客に追徴課税が発生した場合などに補償されます。保険料は業種や売上規模によって大きく異なりますが、年間5万円〜30万円程度が目安です。

個人情報漏洩保険・サイバーリスク保険

顧客の個人情報やクレジットカード情報を取り扱う事業では、情報漏洩に備える保険が不可欠です。近年はサイバー攻撃が高度化しており、小規模事業者であっても標的になるリスクがあります。

サイバーリスク保険では、情報漏洩の調査費用、被害者への見舞金、再発防止対策の費用、さらには訴訟対応費用まで幅広くカバーされます。ECサイト運営やSaaS提供を行う起業家は特に優先的に検討すべき保険です。

火災保険・動産総合保険で財産を守る

事業用の財産を守るための保険も、起業時に欠かせない検討項目です。自然災害や事故による損失は予測が難しく、一度の被害で事業継続が困難になるケースもあります。

事業用火災保険の基本

事業用火災保険は、オフィスや店舗、工場などの建物と、その中にある設備・什器・在庫商品などを火災や自然災害から守る保険です。賃貸オフィスを利用する起業家の場合、建物自体はオーナーが保険をかけていますが、自社の設備や商品については自分で保険をかける必要があります。

補償範囲は契約内容によって異なりますが、一般的には火災・落雷・風災・水災・盗難などがカバーされます。地震による損害は別途「地震保険」の付帯が必要な点に注意してください。

動産総合保険

動産総合保険は、事業用の機械設備やIT機器、商品在庫などの動産を幅広くカバーする保険です。オフィス内だけでなく、外出先での破損や盗難にも対応できるプランがあるため、ノートPCやカメラなどの高額機器を持ち歩く業種に適しています。

特にフリーランスのカメラマンやITエンジニア、デザイナーなど、持ち運ぶ機材の価値が高い起業家は、火災保険だけでなく動産総合保険の検討をおすすめします。

利益保険(休業損害保険)

利益保険は、火災や自然災害などで事業が一時的に停止した場合に、失われた利益や継続的に発生する固定費を補償する保険です。火災保険が建物や設備の「物理的な損害」を補償するのに対し、利益保険は「営業停止による経済的損失」をカバーします。

飲食店や小売店など、営業を停止すると直ちに売上がゼロになる事業形態では、利益保険の重要性が特に高くなります。復旧までの家賃や人件費などの固定費を保険でまかなえれば、事業再開への道筋を立てやすくなります。

所得補償保険・就業不能保険で経営者自身を守る

起業初期において最も大きなリスクの一つが、経営者自身が働けなくなることです。特に一人で事業を行っている場合、自身のケガや病気は即座に収入の途絶を意味します。

所得補償保険とは

所得補償保険は、病気やケガで働けなくなった場合に、月々の所得を一定割合で補償してくれる保険です。一般的に、補償額は直近の所得の50〜70%程度に設定され、免責期間(待期期間)を経てから保険金が支払われます。

会社員であれば健康保険の「傷病手当金」で最長1年6ヶ月間、給与の約3分の2が支給されます。しかし、個人事業主が加入する国民健康保険にはこの制度がありません。法人化して社会保険に加入していたとしても、経営者の報酬が高額な場合には傷病手当金だけでは不十分な場合があります。

就業不能保険との違い

就業不能保険は生命保険会社が提供する商品で、長期間にわたって就業が困難になった場合に備えるものです。所得補償保険との主な違いは、補償期間の長さと対象範囲です。

所得補償保険は一般的に補償期間が1〜2年程度で、復職を前提とした短中期的な補償に向いています。一方、就業不能保険は60歳や65歳までの長期的な補償を設定できるものが多く、重度の障害や長期療養に対する備えとして適しています。

起業家としては、まず所得補償保険で短中期的なリスクに備え、余裕があれば就業不能保険で長期リスクにも対応するという二段構えがおすすめです。

経営者保険(キーパーソン保険)

法人の場合、経営者に万が一のことがあった際に会社が受け取る保険として「経営者保険(キーパーソン保険)」があります。経営者の死亡や高度障害に備え、会社の運転資金や借入金の返済原資を確保するための保険です。

保険金の受取人を法人にすることで、経営者不在時の事業の安定化を図れます。また、法人が支払う保険料の一部は損金として計上できるため、節税効果も期待できます。ただし、税制改正によって取り扱いが変わることがあるため、必ず税理士に相談のうえ加入を検討してください。

労災保険と雇用保険の基本

従業員を雇用する起業家にとって、労働保険(労災保険と雇用保険)の加入は法律上の義務です。また、経営者自身も特別加入制度を利用することで労災保険の対象にすることができます。

労災保険の概要と加入義務

労災保険は、従業員が業務中や通勤中にケガをしたり、病気になったりした場合に補償する保険です。正社員だけでなく、パートやアルバイトも含めて一人でも雇用していれば加入が義務付けられています。

労災保険料は全額事業主負担で、業種によって保険料率が異なります。一般的な事務職であれば給与総額の0.25%程度、建設業や製造業ではより高い料率が設定されています。

経営者の労災保険特別加入

原則として、経営者や役員は労災保険の対象外です。しかし、中小企業の経営者は従業員と同じように現場で作業することも多く、業務中のケガのリスクがあります。そこで用意されているのが「特別加入制度」です。

特別加入できる中小企業事業主の範囲は、業種ごとに従業員数の上限が定められています。加入するには労働保険事務組合に事務処理を委託する必要がありますので、地域の労働保険事務組合に問い合わせてみてください。

雇用保険の加入義務

雇用保険は、従業員が失業した際に失業給付を受けられるようにするための保険です。週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがある従業員は加入対象となります。保険料は事業主と従業員の双方が負担し、業種によって料率が異なります。

起業時に初めて従業員を雇う場合、ハローワークでの手続きが必要です。手続きの遅れは法律違反となるだけでなく、万が一の際に従業員に不利益が生じるため、雇用開始前に確実に手続きを済ませましょう。

業種別に見る保険選びの優先順位

保険の種類は多岐にわたるため、すべてに加入するのは現実的ではありません。ここでは業種別に優先度の高い保険を整理します。

IT・Web系事業

IT・Web系の起業家が最優先で検討すべきは、個人情報漏洩保険・サイバーリスク保険と、専門職業人賠償責任保険(E&O保険)です。顧客のデータを扱うことが多く、システム障害やセキュリティインシデントのリスクが常に存在します。

次に重要なのが所得補償保険です。IT系の起業家はスキル依存度が高く、本人が働けなくなると直ちに売上に影響します。動産総合保険も、高額なPC・サーバー機器を保有している場合には検討する価値があります。

飲食・小売業

飲食・小売業では、生産物賠償責任保険(PL保険)と施設賠償責任保険が最優先です。食中毒や店内事故のリスクは常に存在し、一度の事故で多額の賠償責任を負う可能性があります。

次に、火災保険と利益保険が重要です。店舗が被災すると営業停止に直結し、固定費だけが発生し続ける事態になります。利益保険で休業中の損失をカバーできれば、復旧への見通しが立てやすくなります。

コンサルティング・士業

コンサルティングや士業の場合、専門職業人賠償責任保険が最も重要です。専門的なアドバイスに基づいて顧客が意思決定を行うため、助言の誤りが大きな損害につながる可能性があります。

所得補償保険も優先度が高いです。コンサルタントや士業は個人のスキルと信頼で事業が成り立っているため、就業不能時のリスクは他業種以上に深刻です。

建設・製造業

建設・製造業では、労災保険(特別加入を含む)と賠償責任保険が最優先です。作業現場での事故リスクが高く、第三者への被害も発生しやすい業種です。また、建設業では工事保険や請負業者賠償責任保険など、業種特有の保険商品も検討すべきです。

保険料を抑えるための工夫と注意点

起業初期は資金に余裕がないことが多く、保険料もできるだけ抑えたいところです。ここでは、必要な補償を確保しつつ保険料を抑えるための工夫をご紹介します。

免責金額(自己負担額)を活用する

多くの保険では、免責金額を設定することで保険料を下げられます。免責金額とは、損害が発生した際に自分で負担する金額のことで、例えば免責10万円に設定すると、10万円以下の損害は自費で対応し、それを超える部分を保険でカバーします。

小さな損害は自社で対応できる体力があるなら、免責金額を高めに設定して保険料を節約するのは合理的な選択です。ただし、手元の資金力と相談のうえで設定してください。

パッケージ保険を活用する

保険会社によっては、中小企業向けのパッケージ保険(ビジネス総合保険など)を提供しています。賠償責任保険、火災保険、利益保険などを一括で契約できるため、個別に加入するよりも保険料が割安になることがあります。

商工会議所や業界団体を通じて加入できる団体割引プランも有効です。起業家コミュニティや業種別の組合に所属している場合、団体契約の保険を利用できないか確認してみましょう。

補償の重複を避ける

複数の保険に加入する際、補償内容が重複していないか確認することが重要です。例えば、パッケージ保険に含まれる賠償責任保険と、別途加入した個人情報漏洩保険の補償範囲が一部重複しているケースがあります。重複部分は無駄な保険料の支払いになるため、加入時に保険代理店やファイナンシャルプランナーに相談して最適な組み合わせを検討してください。

年払いを活用する

保険料は月払いよりも年払いの方が割安になることが一般的です。資金繰りに余裕がある場合は、年払いにすることでトータルの保険料を抑えられます。数%程度の割引になることが多いため、複数の保険を年払いに切り替えるとまとまった節約になります。

保険加入の手続きと相談先

最後に、実際に保険に加入する際の手続きの流れと、相談先について解説します。

保険加入の一般的な流れ

保険加入の手順は、まずリスクの洗い出しから始まります。自社の事業内容や規模、取り扱うデータの種類、従業員の有無などを整理し、どのようなリスクがあるかを明確にします。

次に、複数の保険会社や代理店から見積もりを取得します。同じ種類の保険でも、保険会社によって補償内容や保険料に差があるため、最低でも3社程度から見積もりを取って比較検討しましょう。

見積もり比較の結果、最適なプランが決まったら申込手続きに進みます。事業内容の告知や、必要書類(登記簿謄本、決算書類など)の提出を経て契約が成立します。

相談先の選び方

保険の相談先は大きく分けて、保険会社の直接営業、保険代理店、独立系のファイナンシャルプランナーの3つがあります。

保険会社の直接営業は、自社の商品に詳しいという強みがありますが、他社との比較が難しいというデメリットがあります。保険代理店は複数の保険会社の商品を扱っているため、比較検討がしやすい点が特徴です。独立系のファイナンシャルプランナーは、保険だけでなく全体の資金計画を踏まえたアドバイスが期待できます。

起業家向けの保険に精通した専門家に相談することで、事業特有のリスクに対応した最適な保険プランを組み立てることができます。商工会議所や創業支援センターでも保険に関する相談を受け付けている場合があるため、活用を検討してみてください。

定期的な見直しの重要性

保険は一度加入すれば終わりではありません。事業の成長に伴って、売上規模、従業員数、取り扱う商品・サービス、保有する設備などが変化すれば、必要な保険の種類や補償額も変わります。

少なくとも年に一度は保険の内容を見直し、現在の事業実態に合った補償になっているかを確認しましょう。事業拡大に伴って新たなリスクが生じた場合は追加の保険を検討し、逆にリスクが低減した場合は不要な保険の解約も視野に入れます。

起業は多くのリスクと隣り合わせですが、適切な保険で備えることで、安心して事業に集中できる環境を整えることができます。まずは自社のリスクを整理するところから始めてみてください。

#保険#起業#リスク管理
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