「会社を設立したいけれど、何から始めればいいのかわからない」「株式会社と合同会社のどちらを選ぶべきか迷っている」――そんな悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
会社設立には、定款の作成、資本金の払い込み、法務局での登記申請、税務署や年金事務所への届出など、多くの手続きが必要です。一つひとつの手続きを正しい順序で進めなければ、二度手間になったり、設立日がずれてしまったりするリスクがあります。
本記事では、株式会社と合同会社の両方の設立手順を、準備段階から登記完了後の届出まで時系列で完全解説します。これから起業を考えている方が、迷わずスムーズに会社設立を進められるよう、実務上のポイントも踏まえて詳しくお伝えします。
会社設立の全体像|設立までのステップを把握する
会社設立の手続きは大きく分けて「事前準備」「定款の作成・認証」「資本金の払い込み」「登記申請」「設立後の届出」の5段階に分かれます。全体像を把握しておくことで、スケジュール管理がしやすくなり、抜け漏れも防げます。
株式会社の設立手順(全体フロー)
株式会社を設立する場合の一般的な流れは以下の通りです。
- ステップ1:基本事項の決定(商号・事業目的・本店所在地・資本金額・役員構成など)
- ステップ2:会社の印鑑作成
- ステップ3:定款の作成
- ステップ4:定款の認証(公証役場)
- ステップ5:資本金の払い込み
- ステップ6:登記申請書類の作成
- ステップ7:法務局への登記申請
- ステップ8:設立後の届出(税務署・都道府県・年金事務所など)
株式会社の場合、定款の公証人による認証が必要なため、合同会社より手続きが1ステップ多くなります。全体の所要期間は、準備開始から登記完了までおおむね2週間〜1ヶ月が目安です。
合同会社の設立手順(全体フロー)
合同会社の場合は、定款の公証人認証が不要なため、株式会社より手続きがシンプルです。
- ステップ1:基本事項の決定(商号・事業目的・本店所在地・資本金額・社員構成など)
- ステップ2:会社の印鑑作成
- ステップ3:定款の作成
- ステップ4:資本金の払い込み
- ステップ5:登記申請書類の作成
- ステップ6:法務局への登記申請
- ステップ7:設立後の届出
合同会社は1週間〜3週間程度で設立できるケースが多く、費用面でも株式会社より安く済みます。スピード重視の起業家にとっては大きなメリットです。
事前準備|設立前に決めるべき基本事項
定款の作成に入る前に、会社の基本事項を決めておく必要があります。ここで決めた内容がそのまま定款に記載され、登記事項にもなるため、慎重に検討しましょう。
商号(会社名)の決定
商号は会社の「顔」となる重要な要素です。法律上のルールとして、以下の点に注意してください。
- 株式会社なら「株式会社」、合同会社なら「合同会社」を商号に含める必要がある
- 同一住所で同一の商号は登記できない
- 銀行や保険など、特定業種を示す文字は許認可なしに使用できない
- 使用できる文字はひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字・アラビア数字・一部の記号に限られる
商号が決まったら、法務局で類似商号調査を行いましょう。同一住所に同一商号がないか確認するだけでなく、同業他社の商号と酷似していないかも併せてチェックすることをおすすめします。
事業目的の設定
事業目的とは、会社がどのようなビジネスを行うかを定款に記載する項目です。設定のポイントは以下の通りです。
- 明確性:第三者が読んで事業内容を理解できる表現にする
- 適法性:違法な事業を目的にすることはできない
- 営利性:利益を上げることを前提とした事業内容であること
- 将来の拡張性:今後展開する可能性のある事業も含めておく
事業目的は後から変更できますが、変更登記に費用がかかります。将来的に手掛ける可能性がある事業は、あらかじめ記載しておくのが賢明です。最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」という包括的な一文を入れておくのが一般的です。
本店所在地・資本金額・役員構成の決定
本店所在地は、登記上の会社の住所です。自宅、賃貸オフィス、バーチャルオフィスなどを設定できます。定款には最小行政区画(「東京都港区」など)まで記載し、詳細な番地は登記申請書に記載する方法が一般的です。こうしておけば、同じ区内での移転時に定款変更が不要になります。
資本金額は、会社法上は1円から設定可能ですが、実務上は事業の運転資金や取引先からの信用を考慮して決定します。一般的には50万円〜300万円程度で設立するケースが多いです。
役員構成について、株式会社の場合は最低1名の取締役が必要です。取締役会を設置する場合は3名以上の取締役と1名以上の監査役が必要ですが、中小規模の起業であれば取締役会非設置会社として設立するのが一般的です。合同会社の場合は「社員」が経営を行い、最低1名の社員が必要です。
決算期(事業年度)の設定
決算期は自由に設定できますが、以下の点を考慮して決めましょう。
- 消費税の免税期間を最大化する:設立日からできるだけ離れた月を決算月にすると、最初の事業年度が長くなり免税のメリットを最大限受けられる
- 繁忙期を避ける:本業が忙しい時期に決算業務が重なると負担が大きい
- 資金繰りを考慮する:法人税の納付は決算日から2ヶ月以内のため、資金に余裕がある時期を選ぶ
3月決算や12月決算が多いですが、必ずしもそれに合わせる必要はありません。自社の事業特性に合った決算期を設定してください。
定款の作成と認証|会社のルールブックを作る
定款は「会社の憲法」とも呼ばれ、会社の基本ルールを定めた文書です。絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の3種類があります。
定款の絶対的記載事項
以下の項目は必ず定款に記載しなければならず、一つでも欠けると定款が無効になります。
- 商号:会社名
- 事業目的:会社が行う事業の内容
- 本店所在地:会社の住所
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額:資本金に関する事項
- 発起人の氏名または名称および住所:設立メンバーの情報
株式会社の場合はこれに加えて「発行可能株式総数」を定款または設立登記までに定める必要があります。
電子定款と紙の定款の違い
定款は紙で作成する方法と、PDF形式の電子定款で作成する方法があります。
紙の定款:定款原本に4万円分の収入印紙を貼付する必要があります。また、公証役場に提出する正本・謄本も紙で受け取ります。
電子定款:収入印紙が不要のため、4万円のコスト削減が可能です。ただし、電子署名用のICカードリーダーやAdobe Acrobatなどのソフトが必要です。自分で準備するのが手間な場合は、行政書士や会社設立サービスに依頼するのが効率的です。
公証役場での定款認証(株式会社のみ)
株式会社の場合、作成した定款を公証役場で公証人に認証してもらう必要があります。認証手数料は資本金額に応じて以下のように定められています。
- 資本金100万円未満:3万円
- 資本金100万円以上300万円未満:4万円
- 資本金300万円以上:5万円
認証は本店所在地と同じ都道府県内の公証役場で行います。事前にFAXやメールで定款案をチェックしてもらえるため、修正の手間を減らすために事前チェックを活用しましょう。なお、テレビ電話を利用したオンライン認証にも対応している公証役場が増えています。
合同会社の場合は定款認証が不要なため、このステップを省略できます。これが合同会社の設立コストが低い理由の一つです。
資本金の払い込みと登記申請|法務局での手続き
定款の作成(株式会社の場合は認証)が完了したら、資本金の払い込みと登記申請に進みます。
資本金の払い込み方法
資本金は、発起人個人の銀行口座に払い込みます。会社設立前なので法人口座はまだ存在しないため、代表者となる発起人の個人口座を使用します。
払い込みの際の注意点は以下の通りです。
- 定款作成日(認証日)以降の日付で払い込む
- 振込名義は発起人本人の名前であること
- 通帳のコピー(表紙・見開き1ページ目・振込記録のページ)を用意する
- ネット銀行の場合は取引明細のスクリーンショットや画面印刷で代替可能
払い込みが完了したら「払込証明書」を作成します。これは登記申請に必要な書類の一つです。
登記申請に必要な書類一覧
株式会社の登記申請に必要な主な書類は以下の通りです。
- 設立登記申請書
- 登録免許税の収入印紙(15万円、または資本金×0.7%のいずれか高い方)
- 定款(認証済み謄本)
- 発起人の決議書(本店所在地決定書など)
- 取締役の就任承諾書
- 払込証明書
- 印鑑届出書
- 取締役の印鑑証明書
合同会社の登記申請に必要な主な書類は以下の通りです。
- 設立登記申請書
- 登録免許税の収入印紙(6万円、または資本金×0.7%のいずれか高い方)
- 定款(認証不要)
- 代表社員・本店所在地等を決定した書面
- 代表社員の就任承諾書
- 払込証明書
- 印鑑届出書
登録免許税は、株式会社が最低15万円、合同会社が最低6万円となっており、合同会社の方が9万円安く設立できます。
法務局への申請と登記完了
書類が揃ったら、本店所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。登記申請日が会社の設立日になるため、設立日にこだわりがある場合は申請日を調整しましょう(法務局の開庁日に限られます)。
申請方法は以下の3つです。
- 窓口申請:法務局に直接持参して提出
- 郵送申請:書類を郵送で提出(到着日が設立日になるため、日付のコントロールが難しい)
- オンライン申請:法務省の「登記・供託オンライン申請システム」を利用
申請後、法務局での審査期間はおおむね1週間〜10日程度です。補正(書類の不備修正)がなければ、登記が完了し、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得できるようになります。
設立後に必要な届出一覧|忘れると罰則がある届出も
登記が完了して会社が設立されたら、各種行政機関への届出が必要です。届出先と期限を整理しておきましょう。
税務署への届出
税務署には以下の書類を提出します。
- 法人設立届出書:設立日から2ヶ月以内に提出。定款のコピー、登記事項証明書などを添付
- 青色申告の承認申請書:設立日から3ヶ月以内、または最初の事業年度終了日のいずれか早い方までに提出。青色申告のメリット(欠損金の繰越控除など)を受けるために必須
- 給与支払事務所等の開設届出書:役員報酬や従業員給与を支払う場合、設立日から1ヶ月以内に提出
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書:従業員10人未満の場合、源泉税の納付を年2回にまとめられる特例。届出は任意だが、資金繰り改善に有効
特に青色申告の承認申請書は、提出を忘れると最初の事業年度に青色申告ができなくなるため、設立後すぐに提出することをおすすめします。
都道府県税事務所・市区町村への届出
法人住民税と法人事業税に関する届出を行います。
- 法人設立届出書(都道府県):都道府県税事務所に提出。提出期限は都道府県によって異なる(東京都は事業開始日から15日以内)
- 法人設立届出書(市区町村):市区町村の税務課に提出。東京23区の場合は都税事務所への届出のみで足りる
年金事務所・労働基準監督署・ハローワークへの届出
年金事務所には、健康保険・厚生年金保険の新規適用届を提出します。法人は社長1人の会社でも社会保険への加入が義務付けられています。設立日から5日以内の届出が求められます。
労働基準監督署には、従業員を雇用する場合に労災保険の加入手続きを行います。雇用日の翌日から10日以内に届出が必要です。
ハローワークには、雇用保険の適用事業所設置届と被保険者資格取得届を提出します。雇用日の翌日から10日以内が期限です。
株式会社と合同会社の設立費用比較
設立費用は会社形態によって大きく異なります。以下に代表的な費用を比較します。
法定費用の比較表
以下は自分で手続きを行った場合の法定費用の目安です。
株式会社の法定費用(電子定款の場合)
- 定款認証手数料:3万〜5万円
- 定款の謄本交付手数料:約2,000円
- 登録免許税:15万円
- 合計:約18万〜20万円
合同会社の法定費用(電子定款の場合)
- 定款認証手数料:0円(認証不要)
- 登録免許税:6万円
- 合計:約6万円
紙の定款を使用する場合は、上記に加えて収入印紙代4万円が必要です。
専門家に依頼した場合の費用
司法書士や行政書士に設立手続きを依頼する場合、法定費用に加えて5万〜15万円程度の報酬が発生します。また、会社設立freeeやマネーフォワード会社設立などのオンラインサービスを利用すれば、定款作成を無料で行え、提携司法書士の報酬も割安になるケースがあります。
その他に必要な費用として、以下も予算に入れておきましょう。
- 会社印鑑セット:5,000円〜3万円
- 印鑑証明書の取得費用:1通300円程度
- 登記事項証明書の取得費用:1通480〜600円
会社設立でよくある失敗と対策
初めての会社設立では、思わぬ落とし穴にはまることがあります。よくある失敗パターンと対策を紹介します。
事業目的の記載不備
事業目的が曖昧だったり、許認可が必要な事業の目的が抜けていたりすると、銀行口座の開設時や許認可申請時に問題が発生します。たとえば、人材派遣業を行う予定があるなら「労働者派遣事業」を事業目的に含めておく必要があります。設立後に変更する場合、登録免許税3万円と司法書士への報酬が別途かかります。
資本金の払込日の間違い
資本金の払い込みは、定款作成日(認証日)以降に行う必要があります。定款作成前に払い込んでしまうと、登記申請が受理されない可能性があります。日付を確認して、正しい順序で手続きを進めましょう。
届出期限の見落とし
設立後の届出には期限があるものが多く、特に青色申告の承認申請書は期限を過ぎると最初の事業年度に適用できません。設立日をもとに各届出のスケジュール表を作成し、期限管理を徹底することをおすすめします。
社会保険加入の遅れ
法人は設立日から社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務があります。届出を忘れていると年金事務所から連絡が来て、遡って保険料を請求されるケースがあります。設立後すぐに手続きしましょう。
まとめ|会社設立を確実に進めるためのチェックリスト
会社設立の手続きは多岐にわたりますが、一つひとつのステップを着実にこなせば、誰でも会社を設立できます。最後に、本記事の内容をチェックリストとしてまとめます。
- 商号・事業目的・本店所在地・資本金額・役員構成・決算期を決定したか
- 会社の印鑑を作成したか
- 定款を作成し、絶対的記載事項に漏れがないか
- 株式会社の場合、公証役場で定款の認証を受けたか
- 資本金を定款作成日以降に正しく払い込んだか
- 登記申請に必要な書類を全て揃えたか
- 法務局に登記申請を行い、登記事項証明書を取得したか
- 税務署に法人設立届出書・青色申告承認申請書を提出したか
- 都道府県税事務所・市区町村に法人設立届出書を提出したか
- 年金事務所に社会保険の新規適用届を提出したか
- 従業員がいる場合、労基署・ハローワークへの届出を行ったか
会社設立は起業のスタートラインです。手続きに不安がある場合は、オンラインの会社設立サービスや専門家の力を借りることも検討してみてください。正しい手順で確実に進め、事業に集中できる環境を整えましょう。
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