SaaS型のビジネスの成功に有効な手法である「カスタマーサクセス」。カスタマーサクセスの効果を最大化するためには、適切なKPIの設定が大切です。
今回は、カスタマーサクセスに適切なKPIを9つに厳選して解説します。KPIを達成するコツについてもまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
カスタマーサクセスの意味と目的
カスタマーサクセスとは、自社が提供した商品・サービスを媒体として、カスタマー(顧客)のサクセス(成功体験)を促し、成功体験を継続させる活動のことです。
顧客の成功体験を促すために活動する組織をカスタマーサクセスと呼ぶこともあります。
カスタマーサクセスの大きな特徴は、企業が能動的に顧客の成功体験を後押しできる点です。サービスの契約前後に、顧客に対して、自社の商品やサービスの効果を最大に感じてもらえるように働きかけることで、顧客のLTV(ライフ・タイム・バリュー)を最大化できます。
商品・サービスを媒介として成功体験を得た顧客は、サービスの継続率やリピート率が高まる傾向にあるため、企業の利益拡大にもつながるのです。
LTVについてはKPIの項目で詳しく解説します。
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサポートとカスタマーサクセスでは、顧客にアプローチする姿勢が異なります。
カスタマーサポートは、自社が提供した商品・サービスに関して、顧客からの問い合わせがあった際に対応する方法で、受動的なアクションが特徴です。一方、カスタマーサクセスは、企業側から能動的にアクションを起こして商品・サービスの成功体験を促します。
カスタマーサクセスの例として、サービスの導入から運用初期の段階をサポートする「オンボーディング」という手法があります。
オンボーディングとは、簡単に言えば「顧客がつまずきやすい導入や運用初期の段階を企業がサポートする」手法です。顧客の離脱を防ぎ定着を促すことが主な目的となります。オンボーディングによって、つまずきやすい導入や導入初期の段階を顧客がクリアできるようになるため、結果的に成功体験を得やすくなるわけです。
カスタマーサクセス | カスタマーサポート | |
対応方法 | 企業から顧客へアプローチする | 顧客からの連絡に対応する |
具体例 | 商品やサービスの導入および運用をサポートして、定着を促す | 商品の不具合やサービスの疑問点に回答 |
カスタマーサクセスにKPIを設定する理由
カスタマーサクセスを運用しても、はじめから大きな成果をあげられるとは限りません。そこでKPIの設定が重要となります。
KPIとは「重要業績評価指標」と訳される指標で、企業活動の進捗状況や達成度を可視化するのに役立ちます。
例えば、解約率(チャーンレート)をカスタマーサクセスのKPIに設定すると、顧客の解約率を具体的に把握できるでしょう。
そこで解約率が上昇していれば、現在のサービスに何らかの改善が必要だとわかるため、適切な対応方法を検討できるわけです。
KPIを定期的に評価・改善することで、自社の顧客に最適なカスタマーサクセスへとブラッシュアップさせることも可能です。
関連記事:KGI・KPIとは?違い・設定する意味・具体例を解説
カスタマーサクセスに効果的なKPI9選
カスタマーサクセスに効果的な9つのKPIを解説します。
- 解約率(チャーンレート)
- LTV(顧客生涯価値)
- オンボーディング完了率
- NPS
- CSAT(顧客満足度)
- 顧客維持率(リテンションレート)
- アップセル・クロスセル率
- アクティブユーザー数(AU数)
- セッション数・セッション時間
解約率(チャーンレート)
解約率とは、「一定期間内に解約または契約終了した顧客の割合」を示す数値です。
SaaS型のビジネスでは、解約率が低ければ、その分顧客がサービスを継続利用してくれていると考えられます。そのためSaaS型のビジネスでは重要なKPIとなります。
ただし仮に新規契約数が延びていても、解約率が高止まりしていれば自社の利益につながらない点は要注意です。
解約率の計算方法は2つあります。
- カスタマーチャーンレート(%)=解約した顧客数÷契約件数×100
- レベニューチャーンレート(%)=サービス単価×解約した顧客数÷一定期間の総収益×100
カスタマーチャーンレートは、顧客数がベースの計算式です。契約中の顧客のうち解約した顧客の割合を数値で確認できます。
レベニューチャーンレートは、複数の価格帯のプランを提供している場合に、価格帯別の解約率がわかる計算式です。
LTV(顧客生涯価値)
LTVとは、Life・time・Value(ライフ・タイム・バリュー)の略称で、顧客の生涯でどれだけ企業に価値をもたらしたかを表す指標です。顧客の生涯とは、自社と取引を開始してから終了するまでを指します。
新規顧客獲得が難しくなっている場合、既存顧客とのつながりを強くして1人の顧客から多くの収益を増やすことが大切です。
特にサブスクリプション型の課金システムを採用している場合、いかに既存顧客にサービスを継続してもらえるかが売上に大きな影響をあたえます。
そのため、カスタマーサクセスにおいてLTVは重要なKPIです。
LTVの代表的な計算式を3つ紹介します。
- LTV=顧客単価×購入頻度×収益率×利用期間
- LTV=(売上高ー売上原価)÷購入者数
- LTV=年間取引額×収益率×継続年数
オンボーディング完了率
オンボーディング完了率とは、「オンボーディングが完了して定着に至った顧客の割合」を示す指標です。
繰り返しになりますが、オンボーディングとは、顧客のサービス導入や運用の初期段階にアプローチして、顧客がサービスに慣れて定着するまで企業がサポートすること。
特に自社の商品やサービスをはじめて利用する顧客の場合、導入と運用初期の段階でつまずくと、早期解約してしまうおそれがあります。
そこで、サービスの利用方法をレクチャーしたり必要なチュートリアルを提供したりして、悩みや不安を解消して、顧客が成功体験を得やすくするのです。
オンボーディング完了率の計算式がこちらです。
オンボーディング完了率(%)=オンボーディングが完了した顧客÷サービス導入直後の顧客数×100
オンボーディング完了率が100%に近づけば近づくほど、サービス定着に至った顧客は多いとわかります。
オンボーディング完了率は、企業がオンボーディングに取り組む際に欠かせないKPIです。
NPS
NPSとは、Net・Promoter Score(ネット・プロモータースコア)の略称で、商品やサービスあるいは企業について、「どのくらい他の人に勧めたいと思うか」を数値化した指標です。
NPSのスコアは、自社の商品やサービスが、どのくらい伝播されるのかをチェックする目安になります。
そのため、新規顧客獲得やリピート率の増加といった予想を立てる際に効果的なKPIです。
NPSは2段階で測定します。
- 顧客に「どのくらいお勧めしますか?」というアンケートを行う。
- 商品やサービスあるいは企業について、他者への推奨度を0から10の11段階で評価してもらう
- 0~6点の「批判者」の数を集計して割合を計算する
- 9~10点の「推奨者」の数を集計して割合を計算する
<推奨度のスコアと名称>
- 0~6点のスコア「批判者」
- 7~8点のスコア「中立者」
- 9~10点のスコア「推奨者」
批判者と推奨者の割合がわかったら、最後に以下の計算式にあてはめます。
NPS(%)=推奨者の割合ー批判者の割合
NPSのスコアは、回答者の割合によってマイナスにもプラスにもなりますので、マイナス評価だからといって焦ることはありません。
また、NPSは業界によって平均値が異なるため、同じ業界の競合他社のNPSと比較することが重要です。
NPSを導入するメリットや注意点について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:マーケティングにおけるNPSとは?導入するメリットや注意点を解説
CSAT(顧客満足度)
CSATとは、Customers・Satisfaction(カスタマーズ・サティスファクション)の略称で、顧客の感情面に着目して、自社の商品・サービスに対する顧客満足度を表した指標です。
「非常に満足」「満足」「どちらでもない」「不満」「非常に不満」という5段階で計測されます。計測したデータを数値化した場合は「CSATスコア」と呼ばれます。
先ほどのNPSと似た単語ですので、両者を比較しておきましょう。
NPS:自社のサービス・商品あるいは会社自体に対する顧客ロイヤリティの指標
CSAT:商品やサービスに対する現時点での満足度を表す指標
CSATは顧客へのアンケートによって確認できるため、特定のサービスを評価したいときに有効です。
顧客維持率(リテンションレート)
顧客維持率とは、一定期間の中で「サービスを継続している顧客の割合」を指します。リテンションレートとも呼ばれる指標です。
顧客維持率(%)=期間終了時の顧客数÷期間開始時の顧客数×100
SaaS型のビジネスでは、顧客の解約を防ぎ、継続期間を伸ばしていくことが売上アップの鍵となります。
一般的に顧客維持率が上昇すると解約率は低下するため、カスタマーサクセスの効果を顧客維持率から図りたい場合に効果的なKPIです。
アップセル・クロスセル率
アップセル・クロスセルは、顧客単価を向上させる営業手法です。
アップセル | クロスセル | |
目的 | 上位モデルを提示して顧客単価を向上させる | 関連商品や関連サービスを提示して顧客単価を向上させる |
具体例 | 顧客が現在契約中のプランよりも、上位の料金プランを提案する | 顧客が契約しているサービスと関連性の高い別のサービスやオプションを提案する |
アップセル・クロスセルは、以下の計算式で表せます。
- アップセル率(%)=上位プランへ乗り換えてもらった顧客数÷全ての顧客数×100
- クロスセル率(%)=別のサービスやオプションを契約した顧客数÷全ての顧客数×100
アップセル・クロスセルは、アップセルやクロスセルを実施する際に必ず設定したいKPIです。
関連記事:アップセルとクロスセルの違いを解説!売上アップにつながる理由とは?
アクティブユーザー数(AU数)
アクティブユーザー数とは、サービスを積極的(アクティブ)に利用しているユーザー数のことです。
SaaSのビジネスにおいては、システムを起動したユーザーや一定期間のうちにWebサイトにアクセスしたユーザーなどが該当します。
アクティブユーザー数を把握することで、どのくらいのユーザーが自社のサービスを利用しているのかがわかるため、顧客の利用状況を正確に把握できるでしょう。
「サービスに登録しているが、積極的に利用していない」という解約リスクの高いユーザーの発見にも役立ちます。
セッション数・セッション時間
セッション数とは、顧客がサービスを利用した回数のことです。セッション時間は、顧客がサービスを利用している時間を表しており、両者はユーザーの満足度を観測できる指標です。
セッション数が多かったりセッション時間が長かったりすると、サービスに対する顧客満足度が高いと考えられます。
また、セッション数・セッション時間を他のKPIと一緒に考える方法も有効です。
例えば、顧客維持率とセッション数をセットにすれば、「セッション数が増えると、顧客維持率は高まる」といった観測を立てられるようになります。
具体的な観測を立てることができれば、自社に適切な施策の実現にも役立つでしょう。
カスタマーサクセスのKPIを達成するコツ
カスタマーサクセスのKPIを達成するコツを4つ解説します。
KGIとKPIの方向性を合わせる
KPIを設定する際は、KGIとKPIの方向性を合わせることが大切です。
両者の方向性が合わない場合、苦労してKPIを達成しても、KGIの成果につながらないおそれがあります。
例えば、「6月のMRRを前年同月の数値より〇〇%向上させる」といったKGIならば、自社のサービスの特徴などを考えた上で、収益向上に関連の深い項目をKPIを設定することになります。
収益の向上をKGIに設定するときは、顧客満足度の向上を図るための解約率や顧客維持率などが効果的なKPIとなるでしょう。
また、オンボーディングを導入するなら、オンボーディング完了率がKPIとなります。アップセルやクロスセルを提案するのなら、アップセル・クロスセル率をKPIに設定しましょう。
なお、KGIとKPIの関連性について、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。
関連記事:KGI・KPIとは?違い・設定する意味・具体例を解説
適切な難易度のKPIを設定する
KPIの難易度に注意しましょう。
KPIを達成する難易度があまりにも高過ぎると、従業員のモチベーションが低下してしまうおそれがあります。反対に難易度が低すぎても、モチベーションを維持できない従業員が出てくるかもしれません。
KPIは実現可能な数値を目標に設定することが大切です。
これまで達成してきた実績などを参考に、従業員のモチベーションアップにつながるようなKPIを設定してみてください。
KPIは定期的に評価する
設定したKPIは、1ヶ月や半年などのサイクルで評価しましょう。
定期的に評価することで、KPIの方向性にズレが生じていたり達成困難なKPIを設定していたりした場合の発見にも役立ちます。
KPIは、計画・実行・評価・改善というPDCAサイクルを回し続けることで、効果的なKPIにブラッシュアップされていきます。
部門間で連携を取る
マーケティング部門と営業部門で連携を取ることも大切です。
ターゲット顧客となるペルソナを共有したり、共有したペルソナを顧客ニーズの分析にあてたりすることで、より顧客へ細やかな働きかけができるようになるでしょう。
KPIを設定してカスタマーサクセスを成功に導こう
自社が提供した商品やサービスを媒体として、顧客の成功体験を生み出す活動あるいは活動する組織をカスタマーサクセスと呼びます。
カスタマーサクセスの運用によって、企業は能動的に顧客へアプローチできるため、顧客の成功体験を効率的に促せるようになります。
本記事を参考に効果的なKPIを設定していただき、カスタマーサクセスの効果を最大化させて収益拡大につなげましょう。
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