「起業したい分野があるけれど、本当に市場はあるのだろうか」「競合がどれくらいいて、勝ち目はあるのだろうか」——起業を検討している方が必ず直面するこの疑問に答えるのが、市場調査です。
市場調査と聞くと、調査会社に何百万円もかけて依頼するイメージがあるかもしれません。しかし実際は、無料で使えるツールやデータソースを活用すれば、起業家自身が十分な市場調査を行うことができます。
本記事では、起業前に行うべき市場調査の全体像と、無料ツールを活用した具体的な調査手順を解説します。市場規模の把握、競合分析、顧客ニーズの調査まで、実践的な方法をステップバイステップで紹介します。
市場調査が起業の成功率を左右する理由
中小企業庁の「中小企業白書」によると、起業後5年以内に廃業する企業の割合は約20%に上ります。廃業の主な原因の上位に「販売不振」が挙げられていますが、これは言い換えれば「顧客が求めていない商品・サービスを提供してしまった」ということです。
事前の市場調査は、この失敗を未然に防ぐための投資です。
市場調査で確認すべき3つのポイント
1. 市場の存在と規模:そもそもターゲットとする市場が存在するか、その市場はどれくらいの規模かを確認します。市場規模が小さすぎると、いくらシェアを取っても十分な売上が見込めません。
2. 顧客ニーズの実在:想定している課題を、顧客が実際に抱えているかを検証します。起業家の思い込みと顧客の現実にはギャップがあることが多いです。
3. 競合状況:市場にどのようなプレイヤーがいるか、自社が参入する余地はあるかを分析します。競合が多すぎても少なすぎても注意が必要です。
市場規模を把握する方法
市場規模の調査は、まず「マクロ」な視点で全体像を把握し、次に「ミクロ」な視点で自社が狙える範囲を特定するという2段階で進めます。
TAM・SAM・SOMの考え方
市場規模を考える際は、TAM・SAM・SOMという3つの概念を理解しておくことが重要です。
TAM(Total Addressable Market):獲得可能な最大市場規模。業界全体の市場規模を指します。
SAM(Serviceable Available Market):自社のサービスでアプローチ可能な市場規模。TAMの中で、地域・業種・価格帯などで絞り込んだ範囲です。
SOM(Serviceable Obtainable Market):実際に獲得が見込める市場規模。SAMの中で、現実的に自社が獲得できるシェアを掛けたものです。
例えば、オンライン英会話サービスの場合、TAM(日本の英語学習市場:約9,000億円)→ SAM(オンライン英会話市場:約800億円)→ SOM(ターゲット層の獲得見込み:約2億円)というように段階的に絞り込みます。
無料で市場規模を調べる方法
経済産業省「特定サービス産業実態調査」:業種別の市場規模データが公開されています。サービス産業の市場規模を調べる際の基礎データとして有用です。
総務省統計局「家計調査」:消費者の支出データが項目別に公開されています。BtoC事業の市場規模推定に活用できます。
矢野経済研究所「プレスリリース」:有料レポートのダイジェスト版がプレスリリースとして無料公開されています。最新の市場動向やトレンドを把握するのに便利です。
業界団体の統計データ:各業界の業界団体がWebサイトで統計データを公開しているケースが多いです。Google検索で「〇〇 業界団体 統計」と検索すると見つかります。
Googleトレンド:特定のキーワードの検索ボリュームの推移を確認できます。市場の成長性やトレンドの変化を把握するのに有効です。
競合分析の具体的な手順
競合分析は「敵を知る」ためだけでなく、「自社のポジショニングを決める」ためにも不可欠です。
ステップ1:競合をリストアップする
まず、自社の競合となる企業・サービスを網羅的にリストアップします。
直接競合:同じターゲットに同じ種類の商品・サービスを提供している企業。
間接競合:同じターゲットの同じ課題を、異なる方法で解決している企業。例えば、オンライン英会話の間接競合は、英会話スクール、英語学習アプリ、留学エージェントなどです。
代替手段:そもそも課題を解決しない選択肢(現状維持)や、全く別のアプローチも含めて考えます。
リストアップの方法としては、Google検索(ターゲット顧客が使いそうなキーワードで検索)、App Store/Google Playでの検索、SNSでの話題検索、業界メディアの記事確認などがあります。
ステップ2:競合の情報を収集する
各競合について、以下の情報を無料ツールで収集します。
Webサイトの分析:SimilarWeb(無料版)を使えば、競合サイトの推定訪問数、流入元、閲覧ページ数などを確認できます。
SEO・広告の分析:Ubersuggestの無料機能で、競合がどのキーワードで上位表示されているか、どんな広告を出しているかを調べられます。
SNSの分析:競合のSNSアカウントをフォローし、投稿内容、フォロワー数、エンゲージメント率を観察します。
口コミ・レビューの分析:Google口コミ、App Storeのレビュー、Twitter(X)での言及などから、競合の評判を調査します。特にネガティブなレビューは、競合の弱点であり自社の差別化ポイントのヒントになります。
料金体系の調査:競合の料金ページを確認し、価格帯、課金モデル、プラン構成を整理します。
ステップ3:競合マップを作成する
収集した情報をもとに、競合マップ(ポジショニングマップ)を作成します。2つの軸(例:価格×品質、専門性×汎用性など)を設定し、各競合と自社をマッピングすることで、空白のポジションや差別化の方向性が見えてきます。
顧客ニーズを調査する方法
市場規模と競合の分析に加え、顧客が本当に抱えている課題やニーズを調査することが重要です。
オンラインでのニーズ調査
Q&Aサイトの分析:Yahoo!知恵袋やQuoraで、ターゲット顧客が投稿している質問を調べます。どんな悩みを抱えているか、どんな情報を求めているかが直接的にわかります。
SNSでのソーシャルリスニング:Twitter(X)やInstagramで、関連キーワードの投稿を検索します。顧客の生の声(不満、要望、感想)を収集できます。
Googleキーワードプランナー:Google広告のキーワードプランナー(無料で利用可能)を使い、関連キーワードの月間検索ボリュームを調べます。検索ボリュームが多いキーワード=多くの人が関心を持っているテーマです。
Amazonや楽天のレビュー分析:競合商品のレビューを分析し、顧客が評価しているポイントと不満を持っているポイントを抽出します。
顧客インタビューの実施方法
オンライン調査で仮説を立てたら、次は実際の顧客候補にインタビューを行います。
インタビュー対象の見つけ方:SNSでの募集、知人からの紹介、コワーキングスペースやセミナーでの声かけ、クラウドソーシングサービス(ランサーズ、クラウドワークスなど)での募集といった方法があります。
インタビューのコツ:
・「こういうサービスがあったら使いますか?」という質問はNG(多くの人が社交辞令で「使う」と答えるため)
・代わりに「過去にこの課題にどう対処しましたか?」「お金を払って解決したことはありますか?」という事実ベースの質問をする
・1回のインタビューは30〜45分程度に抑える
・録音の許可を得て、後から見返せるようにする
・最低10人、できれば20人以上にインタビューする
無料ツールを活用した調査の実践手順
ここまで紹介したツールを使い、1週間で市場調査を完了するための実践手順を紹介します。
Day 1-2:市場規模の調査
・経済産業省、総務省の統計データから業界の市場規模を確認
・Googleトレンドで関連キーワードの検索トレンドを確認
・矢野経済研究所などのプレスリリースで最新の市場動向を把握
・TAM→SAM→SOMの概算を算出
Day 3-4:競合分析
・Google検索とApp Storeで競合を10〜20社リストアップ
・SimilarWebで主要競合のWebトラフィックを分析
・各競合の料金体系、サービス内容、強み・弱みを整理
・ポジショニングマップを作成し、自社の参入ポイントを特定
Day 5-6:顧客ニーズの調査
・Yahoo!知恵袋、SNS、レビューサイトで顧客の声を収集
・Googleキーワードプランナーで検索ニーズを分析
・顧客インタビューのスクリプトを作成
・知人やSNSでインタビュー対象者をリクルーティング
Day 7:調査結果のまとめ
・市場規模、競合分析、顧客ニーズの調査結果を1つのドキュメントにまとめる
・事業の成立性を判断する
・追加で調査が必要な項目をリストアップ
・次のアクション(MVP開発、事業計画書作成など)を決定
調査結果の分析と事業判断への活かし方
Go/No-Goの判断基準
市場調査の結果をもとに、事業を進めるかどうかを判断します。以下のチェックリストで確認しましょう。
Goの条件:
・ターゲット市場が十分な規模(最低でもSOMが年商目標の10倍以上)
・顧客の課題が実在し、お金を払って解決したいと考えている
・競合との差別化ポイントが明確に存在する
・自社のリソースで参入可能なポジションがある
No-Goまたは要再検討の条件:
・市場規模が小さすぎる、または縮小傾向にある
・想定した課題が顧客に認識されていない
・競合が強力で、差別化の余地がほとんどない
・参入に必要なリソースが現実的に調達できない
調査結果を事業計画に反映させる
市場調査で得たデータは、事業計画書の各セクションに具体的な根拠として活用できます。
・市場規模データ → 売上予測の根拠
・競合分析結果 → 差別化戦略、ポジショニングの根拠
・顧客ニーズの調査結果 → 商品・サービスの設計、価格設定の根拠
・キーワード分析結果 → マーケティング戦略の根拠
市場調査でよくある間違いと対策
間違い1:調査が目的化してしまう
完璧な調査を目指して何ヶ月もかけてしまうケースがあります。市場調査はあくまで事業判断のための手段です。1〜2週間を目安に区切りをつけ、「現時点でわかっていること」を基に判断しましょう。足りない情報は、事業を進めながら補完すれば十分です。
間違い2:自分に都合の良いデータだけを集める
確証バイアスにより、自分のアイデアを肯定するデータだけを集めてしまいがちです。意識的にネガティブなデータ(市場縮小のデータ、競合の強さを示すデータなど)も収集し、バランスの取れた判断を心がけましょう。
間違い3:二次データだけで判断する
統計データやWeb上の情報(二次データ)だけでは、顧客の生の声はわかりません。必ず一次データ(顧客インタビュー、アンケート)を収集し、定量データと定性データの両方で判断しましょう。
間違い4:市場の現状だけを見て将来を予測しない
現時点の市場規模だけでなく、3〜5年後の市場の変化も予測することが重要です。技術の進化、法規制の変更、人口動態の変化、消費者行動の変化など、将来の市場に影響を与える要因を考慮しましょう。
市場調査は、起業の「最初のステップ」として最も費用対効果の高い投資です。1〜2週間の調査で事業の成功確率を大幅に高められるなら、やらない理由はありません。まずは本記事で紹介した無料ツールを使って、自分の事業アイデアを市場の現実にぶつけてみてください。
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