「このSaaSは月10万円もかかる。5年で600万円だ。それなら自社で同じものを400万円で作った方が得ではないか——」千葉県内の社長から、こうした発想で自社開発を検討する相談を受けることがあります。一見もっともらしい計算ですが、この計算には大きな見落としがあります。本記事では、顧客管理システムを例に5年間の総コストを比較し、中小企業が選ぶべき道筋を考えます。
「自社開発の方が安い」は、なぜ錯覚になりやすいのか
初期費用だけの比較では結論が逆転する
自社開発の見積もりが400万円、SaaSが月10万円とします。単純計算では5年で自社開発400万円<SaaS600万円。しかし現実には、自社開発後の運用コストが加算されるため、この単純比較では済みません。
自社開発したシステムは、運用を続けるために次のコストが継続的にかかります。
- サーバー・インフラ費
- セキュリティパッチ適用・バージョンアップ費
- 保守・障害対応費
- 機能追加・改修費
- 担当者の人件費(または業者への委託費)
これらすべてを積み上げると、自社開発の5年総コストはSaaSを上回ることが多くなります。
SaaS料金には「隠れた価値」が含まれている
SaaSの月額10万円には、開発元が日々投じている次の要素がすべて込みで提供されています。
- 継続的な機能アップデート(年間数十〜数百の改善)
- セキュリティ対応・脆弱性パッチ適用
- 24時間365日の稼働監視
- クラウドインフラ運用
- 新機能開発(AI連携、モバイル対応など)
- カスタマーサポート
これらを自社開発したシステムで実現しようとすると、数千万円規模の投資が必要です。月10万円で享受できるのは、相当にお得だと捉える視点もあります。
5年間の総コストを具体的に試算する
従業員30名規模の商社が顧客管理システム(CRM)を導入するケースを、両方の選択肢で試算してみます。
SaaS導入(Salesforce、HubSpot、kintoneなど)
- 初期導入費(初期設定・データ移行):100万円
- 月額ライセンス費:30名×5,000円=月15万円
- 5年間のライセンス費:15万円×60か月=900万円
- カスタマイズ・運用サポート費:年50万円×5年=250万円
- 合計:約1,250万円
自社開発(スクラッチ、またはパッケージカスタマイズ)
- 初期開発費:600万円(設計・実装・テスト・移行)
- サーバー・インフラ費:月3万円×60か月=180万円
- 保守・障害対応費:月8万円×60か月=480万円
- 機能追加・改修費(5年で3回程度の改修):合計300万円
- セキュリティ対応費(年1〜2回のパッチ適用):合計100万円
- 合計:約1,660万円
この試算では、SaaSの方が5年間で400万円以上安い結果になりました。
ただし、SaaSが不利になるケースもある
利用人数が多い場合
SaaSの料金は「ユーザー数課金」が多く、従業員100名を超える規模になると、自社開発の方が経済合理性を持つ場合があります。月額5,000円×100名=月50万円、年間600万円、5年で3,000万円という金額になり、1,000万円規模の自社開発の方が安くなることがあります。
業務フローが特殊で、SaaSでは対応できない場合
業界特有の慣行、独自の承認フロー、特殊な帳票形式など、標準的なSaaSでは吸収できない要件がある場合、無理にSaaSを使うと業務効率が落ちます。この場合は自社開発が適しています。
ただし、「特殊だと思っていた要件」の多くは、SaaS側の設定や拡張機能で対応可能です。自社開発を選ぶ前に、「本当にSaaSで対応できないか」を詳しく検討することをおすすめします。
データ主権・セキュリティ要件が厳格な場合
金融・医療・防衛関連など、データを海外のクラウドに置けない業界では、SaaSの選択肢が限られます。この場合はオンプレミス運用または国産SaaSが選択肢になります。
中小企業のための判断フレーム
SaaSと自社開発、どちらを選ぶかは、次の3つの質問で整理できます。
質問1:利用人数は何人か?
- 30名以下 → SaaSの方が圧倒的に安い
- 30〜100名 → SaaSが有利だが、カスタマイズ費用次第
- 100名以上 → 自社開発を検討する価値あり
質問2:業務フローはどれだけ特殊か?
- ほぼ標準業務 → SaaS一択
- 標準から5〜10%外れる → SaaSの拡張機能で対応
- 標準から30%以上外れる → 自社開発も検討
質問3:社内にIT人材がいるか?
- いない → SaaS(運用を外部化できる)
- 1〜2名 → SaaSが現実的
- 3名以上の専任チーム → 自社開発の運用も可能
千葉県内の従業員50人規模の中小企業であれば、多くのケースでSaaSが最適解になります。
SaaSを選ぶ際の注意点
1. 料金プランの変更リスク
SaaSは提供元の都合で料金改定が行われることがあります。契約前に「過去の料金改定の頻度・幅」を確認しておくと、将来のコスト予測が立てやすくなります。
2. サービス終了リスク
小規模SaaSは、提供企業の経営悪化などでサービス終了する可能性があります。この場合、データ移行先の選択肢を事前に考えておく必要があります。契約前に「データのエクスポート機能」が標準装備されているかを確認してください。
3. カスタマイズの限界
SaaSは標準機能の範囲で運用する設計思想のため、「業務をシステムに合わせる」覚悟が必要です。社内に「今までのやり方でないと困る」という人が多い場合は、導入前に社内コンセンサス作りが重要になります。
まとめ:自社開発は「本当に必要か」を冷静に判断する
SaaSと自社開発の選択は、初期費用の比較では結論を誤ります。5年間の総コスト、運用負荷、将来の変化対応力を総合的に見る必要があります。多くの中小企業にとって、SaaSは「割高に見えて、実は最もコストパフォーマンスの良い選択肢」です。
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