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Gitとは?身近な例で理解する変更履歴管理の仕組み
「Gitって便利らしいけど、うちの会社にも必要なの?」そんな疑問をお持ちではありませんか。
システム開発を外部に委託している中小企業の経営者にとって、Gitは縁遠い存在に感じられるかもしれません。しかし実は、開発の属人化を防ぎ、トラブル時の復旧をスムーズにし、外部パートナーとの協業を円滑にするなど、経営課題の解決に直結する仕組みなのです。
この記事では、技術的な専門用語を極力使わず、Excelでのファイル管理など身近な例を交えながら、Gitの基本と中小企業での活用メリットをわかりやすく解説します。
Excelの「名前を付けて保存」から考えるバージョン管理
Excelで見積書を作成している場面を想像してください。顧客から修正依頼が来たとき、多くの方は「上書き保存」ではなく、**「見積書_0115.xlsx」「見積書_最新版.xlsx」「見積書_最終版.xlsx」**のように、ファイル名を変えて保存しているのではないでしょうか。
この方法には課題があります:
- どれが最新版か分からなくなる
- 複数人で編集すると「田中版」「鈴木版」が乱立する
- 何を変更したのか、ファイル名だけでは分からない
- フォルダがファイルで溢れかえる
Gitとは、ファイルの変更履歴を自動的に記録・管理してくれる仕組みです。ファイル名を変えて保存する代わりに、「いつ・誰が・どこを・なぜ変更したか」という情報を、すべて1つのファイルの中に記録していくイメージです。
もともとはプログラムのソースコードを管理するために開発されましたが、今では世界中のシステム開発の現場で標準的に使われています。
中小企業こそGitの恩恵を受けやすい4つの理由
「大企業や大規模開発ならともかく、うちのような小さな会社には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、むしろ中小企業こそGitの恩恵を受けやすいのです。
理由1:属人化のリスクを減らせる
中小企業では、システム開発を1人のエンジニアや外部パートナーに依存しているケースが少なくありません。その担当者が急に辞めたり、連絡が取れなくなったりすると、システムの中身が誰にも分からない「ブラックボックス」になってしまいます。Gitを使えば、開発の経緯や変更理由がすべて記録されるため、引き継ぎがスムーズになります。
理由2:トラブル時の復旧が早い
システムの修正作業中に予期せぬエラーが発生し、サイトが表示されなくなった――こんなトラブルは珍しくありません。Gitがあれば、問題が起きる前の状態に数分で戻せるため、ビジネスへの影響を最小限に抑えられます。
理由3:開発コストを削減できる
変更履歴が明確に残ることで、「どこを修正したか分からない」「前回の修正内容を思い出すのに時間がかかる」といった無駄な時間が削減されます。外部に開発を委託している場合、調査時間の削減=コスト削減に直結します。
理由4:複数のパートナーと協業しやすい
デザイン会社、システム開発会社、マーケティング会社など、複数のパートナーと連携してWebサイトやシステムを運用する場合、Gitがあれば情報共有がスムーズになり、作業の重複やミスを防げます。
Gitで解決できる中小企業の3つの課題
Gitの概念が理解できたところで、具体的にどんなことができるのか、中小企業が抱える実際の課題と結びつけながら見ていきましょう。
【課題1】「誰が何を変更したか分からない」を解決
従来の方法では、ファイルサーバーに「最終更新日時」と「更新者」は記録されますが、「何を」「なぜ」変更したかまでは分かりません。
Gitでは、変更するたびに以下がすべて自動的に記録されます:
- 変更した人の名前
- 変更した日時
- 変更した内容(どのファイルのどの部分を修正したか)
- 変更理由(コメントとして記録)
例えば、ECサイトの商品ページに不具合が発生したとします。Gitの履歴を見れば、「3日前に外部パートナーAが決済機能を修正した」「その際、商品表示部分のコードも変更されている」といった情報から、原因の特定が数分で完了します。
【課題2】「間違えたら元に戻せない」を解決
システム開発では、新機能の追加や改善を試したいとき、「もし失敗したら元に戻せるだろうか」という不安がつきまといます。この不安が、新しい挑戦を躊躇させる原因になっています。
Gitがあれば、どんな変更を加えても、ワンクリックで過去の任意の時点に戻せます。
実際の活用例として、あるアパレル企業が繁忙期前にECサイトのデザインをリニューアルしたものの、「前のデザインの方が見やすかった」という顧客の声が多数寄せられたケースがあります。Gitを使っていれば、数分で前のバージョンに戻せます。繁忙期の貴重な売上機会を逃すことなく、落ち着いてから改めてリニューアルを検討できるのです。
また、「部分的に元に戻す」ことも可能です。デザインは新しいままで決済機能だけ前のバージョンに戻す、といった柔軟な対応ができます。
【課題3】「複数人で同時に作業できない」を解決
Excelやファイルサーバーで複数人が同じファイルを編集しようとすると、「○○さんが編集中のため開けません」というメッセージが表示され、作業が止まってしまいます。
Gitでは、複数人が同時に同じファイルを編集できます。それぞれの変更を後から統合(マージ)する仕組みがあるため、待ち時間が発生しません。
自社でシステムを運用しながら、外部のシステム開発会社に機能追加を依頼しているケースを考えてみましょう。従来の方法では、開発会社が作業している間、自社では編集できませんでした。Gitを使えば、開発会社と自社が同時に作業でき、それぞれの変更を自動的に統合できます。
属人化の防止という観点でも、この機能は重要です。「この部分は○○さんしか触れない」という状況がなくなり、担当者の退職や病気などで急に対応が必要になったときも、他のメンバーがすぐに引き継げる体制を作れます。
GitとGitHubの違い:仕組みとサービスの関係
Gitについて調べていると、必ず「GitHub(ギットハブ)」という言葉も目にするはずです。この2つは混同されやすいのですが、実は明確に役割が異なります。
分かりやすく例えるなら、「Word」と「Google Docs」の関係に似ています。
- Git:ファイルの変更履歴を記録する仕組み(ソフトウェア)
- GitHub:Gitを使ったファイルをインターネット上で保管・共有できるサービス
Gitは自分のパソコンだけでも使えますが、チームで開発する場合、全員がアクセスできる共通の保管場所があると便利です。その保管場所を提供しているのがGitHubなのです。
GitHubで実現する3つの協業機能
GitHubは単なる保管場所ではありません。チームでの開発を効率化する様々な機能が用意されています。
プルリクエスト:変更内容をレビューしてもらう仕組み
「この変更を本番環境に反映してもいいですか?」と確認を求める機能です。外部の開発会社が新機能を追加した際、いきなり本番環境に反映するのではなく、まずプルリクエストを作成することで、変更内容を視覚的に確認でき、コメントで質問や修正依頼ができます。
イシュー管理:タスクや問題を一元管理
やるべきタスクや発見されたバグを記録する機能です。従来は、メールやチャット、Excelなど、バラバラの場所でタスク管理をしていたため、「あの依頼、どこに書いたっけ?」と探す時間が発生していました。GitHubのイシュー機能を使えば、すべてのタスクが1か所に集約され、対応状況が一目で分かります。
Wiki・ドキュメント機能:開発のノウハウを蓄積
システムの仕様書、運用マニュアル、トラブルシューティングなど、開発に関するドキュメントをGitHub上に保管できます。情報が散逸せず、いつでも最新版にアクセスでき、新しいメンバーやパートナーへの引き継ぎがスムーズになります。
中小企業がGitHubを活用する実務的メリット
外部パートナーとの協業が円滑に
システム開発を外部に委託している場合、GitHubは共通のワークスペースとして機能します。現在の開発状況がリアルタイムで分かり、質問や修正依頼をその場で伝えられます。「最新版のファイルを送ってください」というやり取りが不要になります。
引き継ぎリスクの大幅な軽減
開発を担当していたエンジニアが退職したり、委託先を変更したりする場合、従来は大きなリスクがありました。GitHubで管理していれば、すべてのコードとその変更履歴が残っており、新しい担当者がすぐに状況を把握できます。
コストは意外と低い
小規模チームなら無料プランで十分使えます。有料プランでも月額数千円程度で、開発効率の向上やトラブル対応時間の削減を考えれば、十分に元が取れます。
Gitと自動デプロイで業務効率を劇的に向上させる
Gitの活用方法として、特に中小企業におすすめしたいのが「自動デプロイ」です。この仕組みを導入すると、システム運用の手間とリスクが大幅に削減されます。
手作業デプロイの5つの問題点
「デプロイ」とは、開発したシステムやWebサイトを本番環境(実際にユーザーが使う環境)に反映させる作業のことです。
多くの中小企業では、以下のような手順で行っています:
- 開発会社から修正済みのファイルを受け取る
- FTPソフトなどでサーバーにログインする
- 該当するファイルを手動でアップロードする
- 動作確認をする
この方法には、いくつかの問題があります:
- アップロード漏れ:複数のファイルを修正した場合、1つ忘れただけでエラーが発生
- 上書きミス:間違ったファイルを上書きしてしまい、サイトが表示されなくなる
- タイミングのズレ:複数のファイルを順番にアップロードする間、一時的に不整合が発生
- 作業者依存:特定の人しかデプロイできず、その人が不在だと対応できない
- 深夜作業:ユーザーへの影響を避けるため、深夜や休日に作業することも
自動デプロイで得られる5つのメリット
自動デプロイとは、Gitに変更を記録すると、自動的に本番環境に反映される仕組みです。人間が手を動かすのは「Gitに変更を記録する」だけで、あとはすべて自動で行われます。
メリット1:ヒューマンエラーの大幅削減
手作業でのアップロードでは、どんなに注意深くても、ミスは避けられません。自動デプロイなら、人間が介在しないため、アップロード漏れや上書きミスが発生しません。
メリット2:デプロイ時間の短縮
手作業でのデプロイには、通常30分〜1時間程度かかります。自動デプロイなら、数分で完了します。しかも、作業者が画面に張り付いている必要はありません。
メリット3:いつでも安心してリリースできる
手作業デプロイの場合、「万が一ミスしたら」という不安から、リリースのタイミングが限定されがちです。自動デプロイがあれば、いつでも安心してリリースでき、小さな改善を頻繁にリリースできるようになります。
メリット4:テスト環境と本番環境の一致
手作業でのデプロイでは、「テスト環境では動いたのに、本番環境ではエラーが出る」という問題がよく起こります。自動デプロイでは、テスト環境と本番環境で同じ手順が実行されるため、このような不一致が起こりにくくなります。
メリット5:開発スピードの向上
「デプロイが面倒」という理由で、小さな修正を後回しにしてしまうことはありませんか?自動デプロイなら、修正が完了したらすぐにリリースでき、開発サイクルが高速化します。
中小企業でも導入可能な自動デプロイの選択肢
「自動デプロイって、大企業向けの高度な仕組みなのでは?」と思われるかもしれません。しかし実は、中小企業でも十分に導入可能です。
1. クラウドサービスを利用(最も手軽)
- Vercel、Netlify、GitHub Pagesなど
- 月額:無料〜数千円程度
- 設定:数時間〜1日程度
- 適用範囲:Webサイト、LP、簡単なWebアプリ
2. CI/CDツールを利用(柔軟性が高い)
- GitHub Actions、CircleCI、GitLab CIなど
- 月額:無料〜数万円程度
- 設定:1〜3日程度
- 適用範囲:ほぼすべてのシステム
小規模なWebサイトであれば、初期費用ゼロ、月額無料で自動デプロイを実現できます。
ある中小企業の例では、導入前は月間4時間のデプロイ作業と年2〜3回のトラブル対応(各5時間)が発生していました。導入後は月間1時間に削減され、トラブルもほぼゼロに。年間で約50時間、数十万円のコスト削減を実現しています。
Gitを導入する前に知っておきたい注意点
ここまでGitの利点を中心にお伝えしてきましたが、現実的な課題も理解しておく必要があります。大切なのは、自社の状況に合った使い方を見極めることです。
学習コストと現実的な導入アプローチ
**結論から言うと、Gitの操作には一定の学習が必要です。**ただし、経営者や業務担当者が直接Gitを操作することは基本的にありません。
現実的な導入アプローチ
中小企業がGitを導入する場合、最も現実的なのは:
- 開発パートナー(開発会社やフリーランス)がGitを使う
- 社内の担当者は、必要に応じて履歴を閲覧できるようにする
- 詳細な操作は、開発パートナーに任せる
このアプローチなら、社内に専門知識がなくても、Gitの恩恵を十分に受けられます。
セキュリティ面で気をつけるべき3つのポイント
Gitは便利なツールですが、使い方を誤るとセキュリティリスクが生じます。
1. 機密情報をGitに含めない
データベースのパスワード、APIキー、クレジットカード情報、顧客の個人情報などは、絶対にGitに含めてはいけません。これらは環境変数や別の設定ファイルとして管理し、Gitの管理対象から除外します。
2. アクセス権限の適切な管理
中小企業の業務システムは、必ずプライベートリポジトリで管理しましょう。また、開発会社との契約が終了した際は、速やかにアクセス権限を削除することも忘れずに。
3. バックアップと災害対策
Gitはバージョン管理ツールであり、バックアップツールではありません。定期的にローカルにバックアップを取り、重要なタイミングでは手動でバックアップを保存しておくと安心です。
「セキュリティ対策が複雑で不安」と感じるかもしれませんが、信頼できる開発パートナーに任せれば、適切に対応してもらえます。契約時に、機密情報の取り扱い方針、アクセス権限の管理方法、バックアップの運用方法を確認しておきましょう。
自社に合った導入を見極める3つのポイント
ポイント1:まず「何を解決したいか」を明確にする
Gitは手段であり、目的ではありません。まずは、自社が抱えている課題を整理しましょう:
- システムの変更履歴が分からず、トラブル時に困っている
- 開発会社との連携がスムーズでない
- 担当者の異動・退職時の引き継ぎが不安
- デプロイ作業に時間がかかり、ミスも多い
課題が明確になれば、どの機能を優先的に導入すべきかが見えてきます。
ポイント2:現在の開発体制を確認する
すでに開発会社・フリーランスと契約している場合は、現在の開発パートナーに「Gitを使った開発に移行したい」と相談しましょう。多くの場合、すでにGitを使っているか、すぐに対応できます。
これから開発会社を探す場合は、「Gitを使った開発」を条件に選定し、見積もり段階でGitの運用方法やリポジトリの管理方法を確認します。
ポイント3:小さく始めて、徐々に広げる
いきなりすべてのシステムをGit管理にする必要はありません。まずはWebサイトの更新から始めて、次に小規模な業務システム、最後に基幹システムと、段階的に導入することで、失敗のリスクを最小限に抑えられます。
最も大切なのは、「何から手を付ければいいか分からない」という段階から相談できるパートナーを見つけることです。単に技術的な作業を請け負うだけでなく、一緒に考え、伴走してくれる存在があれば、安心してGit導入を進められます。
まとめ:Gitは中小企業の「ちょうどいい仕組み」を作る土台
Gitは、中小企業が抱えるシステム開発・運用の課題を解決する強力なツールです。変更履歴が完全に記録され、複数の開発者が同時に作業でき、過去のバージョンに戻せるため、安心して改善を続けられます。作業内容が可視化されることで属人化を防ぎ、自動デプロイと組み合わせることで、ヒューマンエラーを削減できます。
しかし、Gitは導入すれば自動的にすべてが解決するわけではありません。大切なのは、自社の課題を正しく理解し、課題に合った使い方を設計し、無理なく運用できる仕組みを作ることです。そのためには、技術だけでなく、業務の実情も理解してくれるパートナーが必要です。
「SaaSだと機能が多すぎて使いこなせない」「でも、完全なスクラッチ開発は予算的に厳しい」――そんな中小企業にとって、Gitを活用したカスタム開発は、まさに「ちょうどいい選択肢」になります。必要な機能だけを実装し、Gitでしっかり管理することで、長く安心して使えるシステムが手に入ります。
Harmonic Societyが考える、中小企業のためのシステム開発
私たちHarmonic Societyは、「テクノロジーが人を置き去りにしない社会」を目指しています。中小企業のシステム開発において、私たちが大切にしているのは:
1. “ちょうどいい”システムを作ること
御社の業務に本当に必要な機能だけを抽出し、無駄な機能がないため、使いやすく、覚えやすいシステムを提供します。
2. Gitを標準装備すること
すべてのプロジェクトで、Gitによるバージョン管理を標準装備しています。変更履歴が完全に記録されるため、将来の保守・引き継ぎも安心です。
3. 導入後も伴走すること
システムは、作って終わりではありません。操作レクチャー、改善提案、小さな改修、保守管理まで、運用フェーズもしっかりサポートします。
4. AI活用で短期間・低コストを実現すること
すべての開発プロセスにAIを活用することで、従来の開発費の1/3〜1/2程度、開発期間も1/10程度に短縮できます。
もし今、SaaSが自社に合わず困っている、システムの引き継ぎや保守に不安がある、開発会社との連携がうまくいっていない、Gitを導入したいが何から始めればいいか分からない――そんなお悩みをお持ちなら、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは、技術的な提案だけでなく、「御社にとって本当に必要なシステムとは何か」を一緒に考えることから始めます。初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせはこちら
https://harmonic-society.co.jp/contact/
Gitは、中小企業のシステム開発を「安全」で「透明」で「持続可能」なものに変える力を持っています。この記事が、あなたの会社にとって「ちょうどいい仕組み」を見つけるきっかけになれば幸いです。
