目次
「LTVって何?どう計算する?自社ではどう活用する?」——本記事はその疑問に実務目線で答えます。基本式から**モデル別(BtoB・サブスク・リピート)**の求め方、LTV/CAC・回収期間などの関連指標、LTV向上の具体施策までを体系的に解説します。
LTV(ライフタイムバリュー)とは
LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)は、1人(1社)の顧客が取引期間を通じて企業にもたらす累計利益を表す指標です。
基本形は次の通り:
LTV = 平均顧客単価 × 利益率 × 購買頻度 × 継続期間
- 平均顧客単価:1回あたりの売上(AOV/ARPU/ARPA)
- 利益率:粗利率(売上総利益率)を使うのが原則
- 購買頻度:一定期間に何回購入するか
- 継続期間:取引が継続する平均期間(ライフタイム)
計算例
平均単価50万円 × 粗利率50% × 年2回 × 5年 = 250万円
モデル別:現場で使う計算式
1) BtoB(契約・請求が年単位/席数増などが起きる)
- 基本:
LTV = 年間取引額(ARPA) × 粗利率 × 平均契約年数
- 拡張(アップセル/席数増を考慮):
LTV = 粗利ベース年間収益 × 平均契約年数 ×(1 + 年間拡張率)
- 必須KPI:GRR(総維持率)、NDR(純売上維持率)、チャーン(解約率)
2) サブスクリプション(SaaS/D2Cサブスク)
- 月次モデル:
LTV(毛) = 月次ARPU × 粗利率 ÷ 月次チャーン率
※幾何分布の期待寿命より、平均継続月数 ≒ 1/チャーン を用いる近似。 - 回収期間:
CAC回収月数 = CAC ÷ 月次粗利
- 上振れ要因:アップセル、クロスセル、価格改定、アドオン
3) リピート商材(EC/小売)
- 繰り返し購入:
LTV = 平均注文額(AOV) × 年間購入回数 × 粗利率 × 継続年数
- 季節・キャンペーンの偏りはコホート別に算出して差を確認
ポイント:LTVは粗利ベースで見る(広告費や変動費の影響を正しく捉えるため)。必要に応じて割引率(WACC)を用いた割引キャッシュフローでより厳密に。
LTV活用のユニットエコノミクス
LTV/CAC比
- 目安:3:1前後が健全ライン(業界や資本戦略で許容は変動)
- 高すぎる場合:獲得投資の余地あり/低すぎる場合:単価・頻度・継続の改善が急務
CAC回収期間(Payback)
- 短いほど資金繰りに有利。サブスクでは12か月以内を一つの目安に。
維持率・拡張率
- GRR(Gross Retention Rate):解約を除いた“維持力”
- NDR(Net Dollar Retention):解約+縮小+拡張の総合結果(>100%なら拡張で上回る)
よくある計算の落とし穴
- 売上ベースで計算してしまう(粗利率の未反映)
- 一括平均で算出してセグメント差を見ない(チャネル別/初回施策別/プロダクト別に)
- 短期データの外挿(繁忙期・施策直後の偏り)。コホートで追跡を。
- チャーンの定義が曖昧(休眠・一時停止・縮小の扱いを明確化)
- 割引現金流(DCF)や返品/返金、クーポンを無視
LTVを“伸ばす”4つのレバー
- 単価(AOV/ARPU):価格設計、バンドル、アドオン、料金プラン最適化
- 頻度:定期便・リオーダー導線、リテンション施策、ライフサイクル配信
- 期間:オンボーディング品質、NPS/CSAT改善、解約抑止(休会・ダウングレード)
- 粗利率:仕入・物流最適化、チャネルミックス、割引配分の見直し
顧客ロイヤリティ強化の実務(3ステップ)
- 顧客データ収集:属性・行動・購入・問い合わせ・NPS/レビューをCDPへ統合
- 分析・可視化:LTVハイ/ローの差分要因、リテンション曲線、コホート、チャネル別LTV
- 体験最適化:
- オンボーディング:初回体験の“価値到達”を短縮
- ライフサイクルCRM:購入/使用状況に応じたメッセージとオファー
- プロダクト改善:課題の多い時点(ハネ月)へ機能/UXを集中
- サポート:SLA、自己解決コンテンツ、チャット導線
例題(3パターン)
A. BtoB(年契約)
ARPA=120万円、粗利率70%、平均契約年数4年 → LTV=336万円
(拡張率+10%/年なら、さらに上振れ)
B. サブスク(月次)
ARPU=3,000円、粗利率60%、月次チャーン2% →
平均継続月数=1/0.02=50、LTV=3,000×0.6×50 = 9万円
C. リピートEC
AOV=6,000円、年4回、粗利率45%、継続4年 → 43,200円
90日で始める導入ロードマップ
- Day 1–30|設計:指標定義(LTV, CAC, GRR/NDR, 回収期間)、イベント計測整備、データ棚卸し
- Day 31–60|算出:コホートLTV、チャネル別LTV、ペルソナ別LTVの可視化/初期仮説
- Day 61–90|改善:単価/頻度/期間の各レバーでABテスト→回収期間とLTV/CACで評価
ダッシュボードで見るべきもの
- コホートLTV曲線(獲得月×月次累積粗利)
- チャネル別 LTV/CAC、回収期間
- GRR/NDR、チャーン分解(自発/非自発、縮小/拡張)
- NPSと継続率の相関、解約理由トップ5
まとめ
- LTVは粗利ベースでの長期価値。モデルに応じた式を使い分けよう。
- LTV/CAC・回収期間とセットで意思決定するのがユニットエコノミクスの基本。
- 伸ばすレバーは 単価・頻度・期間・粗利率。コホートで測り、学習サイクルを回す。
- まずは定義の明確化→算出→改善を90日で走らせ、以後は四半期ごとに見直し。
支援が必要なら、指標定義・データ整備・ダッシュボード構築・改善実行まで伴走可能です。業種・現状KPI・課題をお知らせください。