目次
LLMは、大量のテキストから確率的に次のトークンを予測し、自然言語の理解・生成を行うAIモデルです。検索補助、機械翻訳、要約、対話、コード生成など、私たちの身近なツールの多くに組み込まれています。
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学習の中核:自己教師あり学習(Self‑supervised Learning)
大量テキストから正解ラベルを人手で付けずに、-
因果言語モデリング(次トークン予測:GPT系)
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マスク化言語モデリング(欠損単語の復元:BERT系)
で事前学習します。必要に応じて**教師あり微調整(SFT)や人間のフィードバックによる強化学習(RLHF/RLAIF)**で応答品質を高めます。
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基盤技術:Transformer
自己注意(Self‑Attention)により、長い文脈の依存関係を効率よく学習。
モデル構成は主に-
Encoderのみ(理解寄り:BERT)
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Decoderのみ(生成寄り:GPT、Llama、Mistral)
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Encoder‑Decoder(翻訳・要約:T5 など)
に大別されます。
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Transformerの要点(超要約)
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Self‑Attention:文中の語同士の関係に重み付け
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多頭注意(Multi‑Head):複数視点で関係性を同時学習
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位置情報:Positional Encoding/相対位置埋め込みで順序を保持
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Feed‑Forward層:非線形変換で表現力を拡張
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スケーリング則:データ・パラメータ・計算量を増やすと性能が滑らかに向上
代表的なLLMと特徴(抜粋)
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GPT 系(OpenAI):Decoderのみ。汎用性・生成力が高く、SFT+RLHFで対話品質を強化。
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Gemini / PaLM 系(Google):大規模・マルチモーダル対応の系譜。検索・ツール連携が強み。
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Claude(Anthropic):安全性・長文コンテキストに強み。
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Llama 系(Meta):高品質な公開モデル。オンプレ/ローカル運用や微調整に好適。
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Mistral/Mixtral(Mistral AI):軽量・高速、MoE(専門家混合)で推論効率◎。
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BERT(Google):Encoderのみ。分類・固有表現抽出・検索の理解側で強力。
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T5(Google):Encoder‑Decoder。「テキスト→テキスト」で多タスクを統一的に扱う。
※「PaLM」はGoogleの言語モデル系です(Metaではありません)。BERTは理解、GPTは生成が得意、という大まかな把握が実務の入り口で役立ちます。
何ができる?主なユースケース
業務一般
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要約・校正・言い換え、議事録生成
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検索拡張生成(RAG):社内文書/ナレッジを引用・根拠付き回答
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情報抽出・分類:非構造データから項目化、タグ付け
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翻訳・多言語FAQ
開発・データ
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コード補完・テスト生成・リファクタ
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データクレンジング・項目正規化
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SQL/正規表現の自動生成
ビジネス
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カスタマーサポートの一次応対/自動提案
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営業・マーケのパーソナライズ文面/要約/競合比較
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人事の求人票起案・面談要点抽出
実装ロードマップ(最短版)
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課題定義:KPI(品質/時間/コスト/安全)を定める
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データ準備:権限設計・PII対策・最新性管理
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モデル選定:API(マネージド)かOSS(ローカル/オンプレ)か
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RAG設計:ベクタDB、分割粒度、再ランキング、引用ポリシー
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評価:自動評価(BLEU、ROUGE、BERTScore)、人手評価、レッドチーム
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安全対策:プロンプト注入対策、ツール実行制御、監査ログ
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運用:モニタリング(品質・レイテンシ・コスト)、ABテスト、継続改善
APIかローカルか:選定の軸
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品質:最先端APIは強力。機密性や特殊ドメインはローカル微調整が有利な場合も。
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コスト/レイテンシ:高頻度・大量処理は軽量OSS+量子化で最適化。
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データ主権:機密/規制要件はオンプレ/仮想私有環境で。
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拡張性:ツール実行(関数呼び出し)、RAG、ワークフロー連携のしやすさ。
よくある誤解と限界
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幻覚(Hallucination):もっとも多い失敗。RAG・引用必須・検証フローを設ける。
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長文弱点:コンテキスト長には限界。分割・要約・再質問で補う。
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最新性:学習カットオフあり。外部検索/RAGで最新情報を補給。
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バイアス/公平性:データ由来の偏りに注意。安全フィルタと方針を明文化。
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プライバシー/著作権:PII/機密の取り扱い、学習素材の権利確認が前提。
評価とモニタリングの指標
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品質:正確性、引用妥当性、一貫性、再現率/適合率
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体験:応答時間、安定性、拒否率
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安全:有害/機密応答の流出率、プロンプト注入耐性
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経済性:1件あたりコスト、スループット、モデル切替の柔軟性
これからのLLMトレンド
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マルチモーダル(画像・音声・動画・表の一体処理)
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長大コンテキストと階層メモリ
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ツール使用/エージェント(API呼び出し・計画立案・実行)
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小型モデルの台頭(蒸留/量子化でオンデバイス運用)
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合成データ活用とデータカバレッジの自動拡充
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ガバナンス標準化(安全評価、監査、PII処理フレーム)
ミニFAQ
Q. LLMは“教師あり学習”なの?
A. 事前学習は自己教師あり学習が中心。応答品質向上の段階で教師あり微調整(SFT)やRLHFを用います。
Q. BERTとGPTの違いは?
A. BERT=Encoderのみ(理解タスク)、**GPT=Decoderのみ(生成タスク)**が基本設計。用途に合わせて使い分けます。
Q. 幻覚を抑える一番のコツは?
A. RAG+出典表示+検証。プロンプト設計と評価データセットの運用も必須です。
まとめ
LLMは自然言語の理解・生成を共通基盤に、要約・検索・対話・コードまで横断的に活用できます。実装ではRAG・評価・安全対策・運用を一体で設計することが成功の鍵。用途・データ・制約からモデルとアーキテクチャを現実的に選び、小さく始めて継続改善しましょう。