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RAG(検索拡張生成)とは?LLMの精度を劇的に向上させる仕組みを徹底解説

目次

RAGという技術を理解することは、今やAIを活用する上で避けては通れない道となっています。この記事では、なぜRAGが必要なのか、どのように動作するのか、そして実際にどう使えばよいのかを、順を追って説明していきます。

なぜRAGが必要なのか

大規模言語モデル(LLM)は素晴らしい文章を生成できますが、大きな問題を抱えています。それは「知らないことを知ったかぶりで答えてしまう」ことと、「学習時点以降の新しい情報を知らない」ことです。

例えば、あなたの会社の就業規則について聞かれたLLMは、一般的な会社の規則を基に、もっともらしい嘘を答えてしまうかもしれません。また、最新のニュースや更新された社内ルールについては、そもそも知識がありません。

RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)は、この問題を解決するために生まれました。簡単に言えば、LLMに「開かれた教科書」を持たせる仕組みです。質問されたら、まず関連する資料を探し、それを読んでから答えるという、人間が普通に行っている方法をAIにも実現させる技術です。

RAGの仕組み:4つのステップ

RAGは以下の4つのステップで動作します:

1. 質問を受け取る(Query) ユーザーから「有給休暇は何日もらえますか?」といった質問が入力されます。

2. 関連情報を探す(Retrieve) システムは質問の意味を理解し、社内規定集などの知識源から関連する文書を検索します。この時、単純なキーワード検索ではなく、意味の近さで検索する「ベクトル検索」という技術を使います。

3. 情報を整理する(Augment) 見つかった関連文書を、元の質問と組み合わせて、LLMへの指示文を作成します。「以下の社内規定を参考にして、有給休暇について答えてください」といった形です。

4. 回答を生成する(Generate) LLMは与えられた参考資料を基に、正確な回答を生成します。重要なのは、回答の根拠となった資料も一緒に示すことです。

他の手法との違い

AIをカスタマイズする方法には、RAG以外にもファインチューニングやプロンプトエンジニアリングがあります。それぞれの違いを理解することが重要です。

プロンプトエンジニアリングは、AIへの質問の仕方を工夫する技術です。RAGはこれを発展させ、質問だけでなく参考資料も自動的に追加する仕組みと言えます。

ファインチューニングは、AIに特定の文体や専門用語を教え込む技術です。例えば「医療用語を正しく使う」「会社のトーンで話す」といった振る舞いを学習させます。一方、RAGは最新の事実や具体的な情報を提供することに特化しています。

実際の運用では、ファインチューニングで専門的な振る舞いを身につけたAIに、RAGで最新情報を与えるという組み合わせが最も効果的です。

システムの構成要素

RAGシステムは大きく2つの処理に分かれます。

準備段階(オフライン処理)

まず、知識となる文書を準備します。PDF、Word、社内Wiki、Slackの会話履歴など、あらゆるテキストデータが対象です。これらを以下の手順で処理します:

  1. クリーニング:不要な装飾やタグを削除し、純粋なテキストにします
  2. 分割:長い文書を意味のある単位(段落や節)に分けます
  3. メタデータ付与:各テキストに「作成日」「部署」「機密レベル」などの情報を追加します
  4. ベクトル化:テキストの意味を数値の列(ベクトル)に変換します
  5. インデックス作成:高速検索のためのデータベースに格納します

実行段階(オンライン処理)

ユーザーからの質問に対して、以下の処理を行います:

  1. 検索:質問文もベクトル化し、意味的に近い文書を探します
  2. 再ランキング:見つかった文書の関連度を再評価し、最も適切なものを選びます
  3. プロンプト構成:選ばれた文書と質問を組み合わせて、LLMへの指示を作ります
  4. 生成:LLMが参考資料に基づいて回答を作成します

実装の基本

RAGの基本的な仕組みは意外とシンプルです。Pythonで最小限の実装をすると、わずか数十行のコードで動作します。重要なのは以下の点です:

  • 意味単位での分割:文書は段落や見出しなど、意味が通じる単位で分割する
  • メタデータの活用:各文書片には必ず出典情報を付ける
  • 出典の明示:回答時には必ず参照した資料を示す

運用で考慮すべきこと

データの鮮度管理

知識は常に更新されます。新しい社内規定が発行されたり、製品仕様が変更されたりしたときに、自動的にシステムに反映される仕組みが必要です。毎晩の定期更新や、ファイル更新をトリガーとした自動取り込みなどを設計します。

品質の評価

RAGシステムの品質は2つの観点から評価します:

  1. 検索精度:正しい文書を見つけられているか
  2. 回答品質:見つけた文書に基づいて適切に回答できているか

これらの評価には、GPT-4のような高性能AIを「審査員」として使う方法も有効です。

セキュリティ対策

企業で使う場合、以下のセキュリティ対策が不可欠です:

  • アクセス制御:ユーザーの権限に応じて参照できる文書を制限
  • 監査ログ:誰がいつ何を聞いたかを記録
  • 個人情報保護:機密情報の自動マスキング

パフォーマンスとコスト

応答速度とコストのバランスも重要です:

  • キャッシュの活用:よくある質問の回答を保存
  • トークン数の最適化:LLMに渡す情報量を適切に調整

RAGが適している場面・適さない場面

適している場面

  • 頻繁に更新される情報を扱う場合(社内規定、マニュアル、FAQ)
  • 回答の根拠を明確にする必要がある場合(法務、医療、金融)
  • 膨大な専門知識を活用する場合(論文、技術文書、判例)

他の手法が適している場面

  • AIの話し方や性格を調整したい場合→ファインチューニング
  • 実際に何かを実行させたい場合→ツール実行やAPI連携

よくある失敗パターン

  1. 準備不足での導入:整理されていない文書をそのまま投入しても、良い結果は得られません
  2. 出典を示さない運用:根拠のない回答は信頼性を損ないます
  3. 情報の詰め込みすぎ:関連性の低い情報まで含めると、かえって精度が落ちます

まとめ

RAGは、LLMの弱点を補い、信頼できるAIアシスタントを実現する技術です。外部の知識を動的に参照することで、最新かつ正確な情報に基づいた回答が可能になります。

実装自体はシンプルに始められますが、適切な運用設計により、企業レベルの堅牢なシステムへと成長させることができます。AIをビジネスで本格的に活用したいなら、RAGの理解と導入は必須と言えるでしょう。

重要なのは、RAGは万能ではないということです。その特性を理解し、適切な場面で、適切な方法で使うことが成功への鍵となります。

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師田 賢人

Harmonic Society株式会社 代表取締役。一橋大学(商学部)卒業後、Accenture Japanに入社。ITコンサルタントとして働いた後、Webエンジニアを経て2016年に独立。ブロックチェーン技術を専門に200名以上の専門家に取材をし記事を執筆する。2023年にHarmonic Society株式会社を設立後、AI駆動開発によるWebサイト・アプリ制作を行っている。

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