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BaaS(バース)とは?基本を理解しよう
「BaaS」という言葉を検索してこの記事にたどり着いたあなたは、「システム開発の手間を減らしたい」「もっと効率的にアプリを作れないだろうか」と考えているのではないでしょうか。
実は「BaaS」には2つの意味があり、検索結果が混在しているため、初めて調べる方は戸惑いがちです。この記事では、**IT開発における「Backend as a Service(バックエンド・アズ・ア・サービス)」**を中心に解説します。
特に中小企業で「システムを作りたいけれど開発リソースが足りない」「SaaSだと機能が足りないし、フルスクラッチは高すぎる」と悩んでいる方にとって、BaaSは**”ちょうどいい”選択肢**になるでしょう。
2つの「BaaS」– Banking vs Backend
BaaSには主に以下の2つの意味があります。
1. Banking as a Service(バンキング・アズ・ア・サービス)
金融機関が持つ機能(口座開設、決済など)をAPI経由で提供するサービス。主に金融業界で使われる用語です。
2. Backend as a Service(バックエンド・アズ・ア・サービス)
アプリやWebシステムのバックエンド機能をクラウドで提供するサービス。IT開発・エンジニアリング分野で使われます。
この記事では、**IT開発における「Backend as a Service」**を詳しく解説します。
Backend as a Serviceとは
Backend as a Serviceとは、アプリやシステムの裏側(バックエンド)の機能を、すぐに使える形で提供してくれるクラウドサービスのことです。「バース」と読みます。
通常、システムを作る際には以下のようなバックエンド機能の構築が必要です。
- データベース:顧客情報や商品データの保存・管理
- ユーザー認証:ログイン機能やパスワード管理
- ファイルストレージ:画像や書類の保存
- API:データのやり取りをする仕組み
これらを一から構築するには時間もコストもかかります。BaaSは、こうした機能をあらかじめ用意された形で提供するため、開発者は画面作りやビジネスロジックに集中できるのです。
なぜ今BaaSが注目されているのか
BaaSが注目される背景には、以下の変化があります。
開発スピードへの要求の高まり
ビジネス環境の変化が速い現代では、従来1〜2ヶ月かかっていたバックエンド開発を数週間で完成させる必要があります。
IT人材不足の深刻化
特に中小企業では専門的なバックエンドエンジニアの確保が困難です。BaaSを活用すれば、少人数のチームでも本格的なシステムを構築できます。
スタートアップ・MVP開発の増加
「まずは小さく始めて、反応を見ながら改善する」アプローチが主流になり、BaaSはこのスピード重視の開発スタイルと相性が良いのです。
BaaSの仕組みと提供機能
従来の開発との違い
BaaSの価値を理解するには、従来の開発方法と比較するとわかりやすいでしょう。
従来の開発フロー(フルスクラッチ)
- サーバーを用意する
- データベースを構築する
- サーバーサイドのプログラムを書く
- 認証システムを実装する
- API設計・実装を行う
- サーバーの監視・保守体制を整える
このプロセスには最低でも1〜2ヶ月、複雑なシステムなら数ヶ月以上かかります。
BaaSを使った開発フロー
- BaaSサービスに登録する(数分)
- 必要な機能を設定する
- フロントエンドから接続する
- ビジネスロジックを実装する
バックエンドの構築作業が大幅に省略され、数日〜数週間で稼働するシステムを作ることが可能です。
BaaSが提供する主な機能
データベース機能
- リアルタイムでデータを同期できるデータベース
- 自動バックアップ機能
- データの検索・フィルタリング機能
ユーザー認証・権限管理
- メールアドレス・パスワードでのログイン
- Google、Facebook、GitHubなどのソーシャルログイン
- 二段階認証(2FA)
- ユーザーごとの権限設定
ファイルストレージ
- 画像、PDF、動画などのファイル保存
- アクセス権限の管理
- CDNによる高速配信
API・関数実行
- REST APIやGraphQLの自動生成
- サーバーレス関数
- Webhook(外部サービスとの連携)
これらの機能がすぐに使える形で提供されるため、開発者は「何を作るか」に集中できます。
サーバーレスとBaaSの関係
サーバーレスとは、開発者がサーバーの管理を意識しなくて良いという意味です。サーバーの設定、メンテナンス、スケーリングなどは、すべてクラウド事業者が自動で行います。
BaaSは、サーバーレスアーキテクチャの一部として位置づけられます。つまりBaaSは、「サーバーレスの考え方をバックエンド全体に広げたもの」と言えます。
メリット・デメリット
メリット
1. 開発期間の大幅な短縮
バックエンド開発にかかる時間を従来の1/5〜1/10程度に削減できます。
2. 開発コストの削減
専門的なバックエンドエンジニアを雇う必要がなく、初期費用が無料または低額で始められます。小規模なプロジェクトなら月数千円程度で運用可能です。
3. スケーラビリティの確保
ユーザー数が増えても、自動的にインフラが拡張されます。
4. セキュリティの向上
認証やデータ保護などのセキュリティ機能が、専門家によって設計・メンテナンスされた形で提供されます。
デメリット
1. ベンダーロックインのリスク
特定のBaaSサービスに依存すると、他のサービスへの移行が難しくなる場合があります。
2. カスタマイズの制限
提供されている機能の範囲内でしか開発できないため、非常に特殊な要件には対応できないこともあります。
3. ランニングコストの変動
ユーザー数やデータ量が増えると、従量課金で費用が膨らむ可能性があります。事前に料金体系を確認し、成長を見越した試算が重要です。
代表的なBaaSサービス比較
Firebase(Google)の特徴
Firebaseは、Googleが提供するBaaSプラットフォームです。2014年にGoogleに買収されて以降、Android・iOSアプリ開発者を中心に広く利用されています。
主な特徴
- リアルタイムデータベース:データの変更が即座に全デバイスに反映
- 充実した認証機能:多様な認証方法に対応
- モバイルアプリとの親和性:プッシュ通知、クラッシュレポートなど、モバイルアプリ開発に必要な機能が充実
- Googleエコシステムとの連携:Google Cloud Platform、Google Analyticsなどとシームレスに連携
料金体系
- 無料プラン(Spark):小規模プロジェクトなら十分
- 従量課金プラン(Blaze):使った分だけ支払い
Firebaseが向いているケース
- モバイルアプリ(特にAndroid/iOS)を開発したい
- リアルタイムなデータ同期が必要
- Googleのエコシステムを活用したい
- スタートアップで素早くMVPを作りたい
Supabase(オープンソース)の特徴
Supabaseは「オープンソースのFirebase代替」として2020年に登場した比較的新しいBaaSです。
主な特徴
- PostgreSQLベース:本格的なリレーショナルデータベースを使用。SQLが使えるため、既存のデータベース知識をそのまま活かせます
- リアルタイム機能:PostgreSQLでありながら、データ変更をリアルタイムで検知・配信
- 自動生成されるAPI:データベースのテーブルを作成すると、自動的にREST APIとGraphQL APIが生成されます
- オープンソース:セルフホスティング(自社サーバーで運用)も可能
料金体系
- 無料プラン:500MBデータベース、1GBファイルストレージ
- Proプラン:$25/月、8GBデータベース、100GBファイルストレージ
Supabaseが向いているケース
- SQLやリレーショナルデータベースに慣れている
- 複雑なデータ構造・リレーションシップを扱いたい
- オープンソースやセルフホスティングを重視
- Webアプリケーション開発が中心
Firebase vs Supabase 比較表
| 項目 | Firebase | Supabase |
|---|---|---|
| データベース | NoSQL(Firestore) | SQL(PostgreSQL) |
| リアルタイム | ◎ 標準機能 | ◎ 標準機能 |
| モバイル対応 | ◎ 非常に充実 | △ 発展途上 |
| API自動生成 | × | ◎ REST/GraphQL |
| オープンソース | × | ◎ |
| 学習コスト | 中(NoSQL学習必要) | 低(SQL知識活用可) |
| 料金(大規模) | 高め | 比較的安い |
その他の主要BaaSサービス
AWS Amplify
- Amazon Web Servicesが提供するBaaS
- AWSの豊富なサービスと連携
- エンタープライズ向けの高度な機能
- 向いている企業:既にAWSを使っている、大規模システムを構築したい
Backendless
- ノーコード・ローコード開発に対応
- ビジュアルなUI開発環境
- 向いている企業:コードを書かずにアプリを作りたい
Parse
- オープンソースのBaaS(元Facebook製)
- セルフホスティング可能
- 向いている企業:完全なコントロールを求める
BaaS選定のポイント
1. 開発するアプリの種類
- モバイルアプリ中心 → Firebase
- Webアプリケーション中心 → Supabase
2. データベースの好み
- SQLに慣れている → Supabase
- NoSQLを使いたい → Firebase
3. 予算とコスト構造
- 初期費用を抑えたい → Firebase、Supabase
- 将来的なコストを抑えたい → Supabase
4. チームのスキルセット
- SQLが得意 → Supabase
- JavaScriptに強い → Firebase
- AWSに詳しい → AWS Amplify
中小企業でのBaaS活用事例
顧客管理システムをBaaSで構築した例
企業プロフィール:製造業A社(従業員30名)
課題
- Excelで顧客情報を管理しており、複数人での同時編集ができない
- 営業担当者が外出先から情報を確認できない
- 既製品のCRMは高額で、不要な機能が多すぎる
採用したBaaS:Supabase
SQLが使えるため、既存のExcelデータを移行しやすく、リアルタイム同期で複数人が同時に作業可能です。
実装した機能
- 顧客情報の登録・検索・編集
- 商談履歴の記録
- 見積書・請求書の紐付け管理
- 担当者ごとのアクセス権限設定
開発期間と費用
- 開発期間:約3週間
- 初期費用:約30万円
- 月額費用:約3,000円
導入後の効果
- 情報共有がスムーズになり、営業会議の時間が半減
- 外出先からスマホで顧客情報を確認でき、商談の質が向上
- 新人の引き継ぎ期間が2週間から3日に短縮
- 既製品CRMと比べて年間40万円以上のコスト削減
BaaS導入時の注意点と成功のコツ
導入前に確認すべきこと
1. 要件定義:本当に必要な機能は何か
- 現状の課題を具体的に書き出す
- 解決したい優先順位をつける
- 必要な機能を3〜5個に絞る
よくある失敗: 「あれもこれも」と機能を詰め込みすぎて、結局使われないシステムになってしまう。
2. 予算:初期費用と運用費用の両方を考える
| 規模 | 初期費用 | 月額費用 |
|---|---|---|
| 小規模(〜10名利用) | 10〜30万円 | 3,000〜10,000円 |
| 中規模(〜50名利用) | 30〜80万円 | 10,000〜30,000円 |
| 大規模(50名以上) | 80万円〜 | 30,000円〜 |
3. 体制:誰が管理・運用するのか
- システム管理者の選定
- ユーザーサポート体制
- 改善・改修の判断者
よくある失敗パターンと対策
失敗パターン1:機能を詰め込みすぎて複雑になる
対策:
- 最初は最小限の機能だけ実装する
- 使いながら追加する前提で設計
- 「なくても困らない機能」は思い切って削る
失敗パターン2:運用体制が整わず放置される
対策:
- 運用責任者を明確にする
- 定期的な見直しの場を設ける
- 小さな改善を続ける仕組みづくり
失敗パターン3:コストが想定以上に膨らむ
対策:
- 使用量の上限設定を行う
- 定期的にコストをモニタリング
- スケールする前に料金シミュレーションを実施
スモールスタートのすすめ
BaaS導入で最も成功率が高いのは、小さく始めて徐々に拡大するアプローチです。
ステップ1:最小機能で試験運用(1〜3ヶ月)
- 特定の部署や5〜10名程度で開始
- コア機能だけを実装
- 週1回フィードバックを集める
ステップ2:改善と機能追加(3〜6ヶ月)
- 試験運用で得た知見を反映
- 利用範囲を徐々に拡大
- 運用ルールを整備
ステップ3:本格展開と最適化(6ヶ月〜)
- 安定稼働が確認できたら全社に展開
- 継続的な改善サイクル
BaaSと他の開発手法との比較
フルスクラッチ開発との違い
| 項目 | BaaS | フルスクラッチ |
|---|---|---|
| 開発期間 | 1週間〜2ヶ月 | 3ヶ月〜1年以上 |
| 初期費用 | 10万円〜80万円 | 300万円〜 |
| カスタマイズ性 | 中〜高 | 非常に高い |
| 保守・運用 | BaaSベンダーが一部担当 | 全て自社で対応 |
BaaSが向いているケース
- 早く市場に出したい
- 予算が限られている
- 専門エンジニアがいない
- 標準的な機能で十分
フルスクラッチが向いているケース
- 独自性の高い機能が必要
- 大規模システム
- 完全なコントロールが必要
ノーコード・ローコードツールとの違い
| 項目 | BaaS | ノーコード/ローコード |
|---|---|---|
| 開発の自由度 | 高い(コードで制御) | 中〜低(ツールの範囲内) |
| 開発スピード | 中 | 非常に速い |
| 技術スキル | プログラミング知識必要 | ほぼ不要 |
| デザインの自由度 | 高い | 中(テンプレート依存) |
BaaSが向いているケース
- 独自のUI/UXを実現したい
- 複雑なビジネスロジック
- 外部システムとの柔軟な連携
ノーコード/ローコードが向いているケース
- とにかく早く作りたい
- エンジニアがいない
- 標準的な業務アプリ
SaaS(既製品)との違い
| 項目 | BaaS(自社開発) | SaaS(既製品) |
|---|---|---|
| 導入スピード | 中(開発期間必要) | 非常に速い |
| カスタマイズ性 | 高い | 低い |
| 初期費用 | あり | ほぼなし |
| 月額費用 | 比較的安い | ユーザー数×単価で高額化 |
コスト比較例:顧客管理システム(50名利用・10年間)
- SaaS:約180万円
- BaaS:約170万円
長期的にはBaaSの方がコストメリットが出る可能性があります。
自社に合った選択肢の見極め方
判断のための5つの質問
Q1. 予算はどのくらいか?
- 〜50万円:ノーコードツールまたはSaaS
- 50〜100万円:BaaSでの開発
- 300万円以上:フルスクラッチも選択肢に
Q2. いつまでに必要か?
- 1週間以内:SaaSまたはノーコード
- 1〜3ヶ月:BaaSでの開発
- 半年以上:フルスクラッチも可能
Q3. どのくらいカスタマイズしたいか?
- 既製品で十分:SaaS
- 部分的にカスタマイズ:BaaS
- 完全オリジナル:フルスクラッチ
迷ったときの判断基準
- 「とりあえず始めたい」→ SaaSまたはノーコード
- 「ちょうどいいものが欲しい」→ BaaS
- 「完全にオリジナルが必要」→ フルスクラッチ
多くの中小企業にとって、BaaSは「ちょうどいい」選択肢になることが多いです。
まとめ:BaaSは「ちょうどいい」システム構築の選択肢
BaaSが向いている企業・プロジェクトの特徴
BaaSは以下のような企業・プロジェクトに最適です。
- 開発リソースが限られている中小企業
- 素早くMVPを作りたいスタートアップ
- SaaSでは機能が合わないが、フルスクラッチは予算オーバー
- 標準的な機能で十分だが、カスタマイズも必要
まずは小さく試してみることの大切さ
BaaS導入で最も重要なのは、スモールスタートです。
- 最小限の機能で始める
- 特定の部署で試験運用
- フィードバックを集めて改善
- 段階的に拡大していく
このアプローチにより、失敗のリスクを最小化しながら、確実に成果を出すことができます。
困ったときは専門家に相談するのも一つの手
「自社だけでは難しい」と感じたら、無理せず外部の専門家に相談することも重要です。
こんなときは相談を検討
- 技術的な判断ができない
- 開発リソースが不足している
- 要件定義がまとまらない
Harmonic Societyができること
私たちHarmonic Societyは、中小企業向けの「ちょうどいい」システム開発を得意としています。
私たちの強み
- BaaSを活用した短期間・低コスト開発:従来の開発費の1/3〜1/2程度で実現
- AI活用で開発期間を短縮:最小構成なら1〜3週間で稼働
- 要件定義から運用サポートまで一気通貫:「何から始めればいいかわからない」という段階から伴走
提供できるシステム
- 顧客管理(CRM)
- タスク管理
- 案件管理
- 予約管理
- 見積・請求
- LINE連携
「システムを作りたいけれど、何から始めればいいかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。あなたのビジネスに「ちょうどいい」システムを一緒に考えます。
