ヘルスチェック設計入門|Liveness・Readiness・依存先チェックで自動復旧を機能させる

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「ヘルスチェック用に/healthを作って200を返すようにした」――多くのチームがここで止まっています。ところが実際の障害では、「プロセスは生きているのにDBに繋がらず、ロードバランサーは正常と判断してリクエストを送り続けた」「DBが少し遅くなっただけで全台が再起動ループに入った」といった、ヘルスチェックの設計そのものが原因の事故が起こります。

この記事では、ロードバランサーやコンテナオーケストレーターがヘルスチェックの結果をどう使うかを起点に、Liveness(再起動の判断)とReadiness(トラフィックを流すかの判断)の違い、DBなどの依存先をチェックに含めるべきかの判断基準、浅いチェックと深いチェックの使い分けを解説します。ExpressとFastAPIの実装例と、誤設定で全台ダウンした事例も取り上げるので、自動復旧が「正しく」機能するヘルスチェックを設計できるようになります。

ヘルスチェックは誰が、何のために使うのか

ロードバランサー:「このサーバーにリクエストを送ってよいか」

ロードバランサー(ALB、Nginx、HAProxyなど)は、配下の各サーバーに数秒〜数十秒おきにHTTPリクエストを送り、一定回数連続で失敗したサーバーを振り分け対象から外します。回復して連続で成功すれば戻します。つまりロードバランサーにとってのヘルスチェックは「このサーバーは今、ユーザーのリクエストをさばけるか」を判断する材料です。ロードバランサーの動作全般はロードバランサーとはで解説しています。

ここで大事なのは、ロードバランサーはサーバーを「直す」ことはしない点です。外すだけです。全台がチェックに失敗した場合の挙動は製品により、ALBは「すべて異常なら全台に送る(fail-open)」という動作をします。全台外して503を返すより、どこかに送った方がまだましだという考え方です。

オーケストレーター:「再起動すべきか」「トラフィックを向けてよいか」

KubernetesやECSのようなコンテナオーケストレーターは、ヘルスチェックの結果を「再起動」にも使います。ここで初めて、2種類のチェックを分ける必要が出てきます。

種類問い失敗したときの動作チェックすべきこと
Liveness(生存)このプロセスは壊れていて再起動が必要かコンテナを強制終了して再起動プロセス自身の状態のみ(デッドロック、イベントループ停止など)
Readiness(準備完了)今リクエストを受けられる状態かロードバランサーの振り分けから外す(再起動はしない)起動処理の完了、依存先への接続、過負荷状態
Startup(起動)起動処理はまだ続いているか成功するまでLivenessを猶予する起動に時間がかかるアプリの初期化完了

Kubernetesはこの3つをそれぞれlivenessProbereadinessProbestartupProbeとして設定します。ECSのヘルスチェックはコンテナ単位のLiveness相当と、ALBのターゲットグループによるReadiness相当の2段構成になります。Kubernetesの基本はKubernetes入門を参照してください。

LivenessとReadinessを分けないと何が起きるか

「再起動しても直らないもの」をLivenessに入れてはいけない

Livenessの失敗は再起動を引き起こします。再起動で直るのは「プロセス内部の不具合」だけです。DBが落ちている、外部APIが遅い、といった依存先の問題はアプリを再起動しても直りません。それどころか、DBが少し不調になると全コンテナがLivenessに失敗して一斉に再起動し、起動時のコネクション確立でDBにさらに負荷がかかり、再起動ループに入ります。これは「自動復旧」ではなく「自動破壊」です。

原則として、Livenessは依存先を見ない。プロセスが生きていてHTTPを返せるなら200、が正解です。デッドロックやイベントループの停止を検知したい場合も、「一定時間内にリクエスト処理が1件も進んでいない」といったプロセス内部の指標で判断します。

Readinessは「今は受けられない」を伝えるための手段

一方Readinessの失敗は「トラフィックを止める」だけで、コンテナは生き続けます。起動直後でDBコネクションプールがまだ温まっていない、キャッシュの初期ロード中、グレースフルシャットダウンで新規リクエストを受け付けたくない、といった「一時的に受けられない」状態をロードバランサーに伝えるための仕組みです。

特にデプロイ時は重要で、新しいコンテナが「起動したがまだ準備できていない」間にリクエストを受ければ、エラーが出ます。Readinessが成功するまで振り分けられない、という仕組みがあるからこそ、ゼロダウンタイムのローリング更新が成立します。デプロイ手法との関係はゼロダウンタイムデプロイの手法を、終了時の扱いはグレースフルシャットダウン入門を参照してください。

DB依存をチェックに含めるべきか:浅いチェックと深いチェック

浅いチェック(shallow)と深いチェック(deep)

浅いチェックは、プロセスが応答できることだけを確認します(固定の200を返す)。深いチェックは、DBへのSELECT 1、RedisへのPING、外部APIの疎通など、依存先まで確認します。深いチェックの方が「本当に動くか」に近い一方で、次の副作用があります。

  • 依存先の障害で全台が同時に異常判定され、ロードバランサーが全台を外す(fail-openしない製品では完全停止)
  • チェックのたびにDBクエリが走り、台数×頻度分の負荷がDBにかかる
  • 依存先のタイムアウト待ちでチェック自体がタイムアウトし、実態より悪い判定になる

判断基準:「そのサーバーを外すと状況が改善するか」

Readinessに依存先を含めるかどうかは、「このサーバーをロードバランサーから外したら、ユーザーの体験が改善するか」で判断します。

  • サーバー固有の問題(そのサーバーだけDBに繋がらない、コネクションプールが枯渇している):外せば他のサーバーが受けるので改善する。チェックに含める価値がある。
  • 全台共通の問題(DB自体がダウン):外しても改善せず、全台が外れて完全停止になる。含めるべきではない。

この2つを区別できないため、実務では次の折衷案が多く採用されています。Readinessは「起動処理の完了」と「自分自身のコネクションプールに空きがあるか」程度の軽い確認に留め、DBのSELECT 1のような深いチェックは別のエンドポイント(例:/health/deep)として用意し、監視ツールからのアラート用にだけ使う、という分け方です。「自動で外す判断」と「人間に知らせる判断」を分けるのが要点です。

実装例:ExpressとFastAPI

Express(Node.js)

Liveness・Readiness・深いチェックの3エンドポイントを分け、Readinessはアプリ内のフラグで制御します。SIGTERM受信時にReadinessをfalseにすることで、ロードバランサーから外れてから終了できます。

import express from "express";
import { pool } from "./db.js";

const app = express();
let ready = false;      // 起動処理完了で true
let shuttingDown = false;

// Liveness:プロセスが応答できれば常に200
app.get("/health/live", (req, res) => res.status(200).send("ok"));

// Readiness:起動完了かつシャットダウン中でなければ200
app.get("/health/ready", (req, res) => {
  if (!ready || shuttingDown) return res.status(503).send("not ready");
  res.status(200).send("ready");
});

// 深いチェック:監視ツール用(LBやk8sには使わない)
app.get("/health/deep", async (req, res) => {
  const checks = {};
  try {
    await Promise.race([
      pool.query("SELECT 1"),
      new Promise((_, rej) => setTimeout(() => rej(new Error("db timeout")), 2000)),
    ]);
    checks.db = "ok";
  } catch (e) {
    checks.db = e.message;
  }
  const healthy = Object.values(checks).every((v) => v === "ok");
  res.status(healthy ? 200 : 503).json({ status: healthy ? "ok" : "degraded", checks });
});

async function start() {
  await pool.query("SELECT 1"); // 起動時に一度だけDB到達を確認
  ready = true;
  app.listen(3000);
}

process.on("SIGTERM", () => {
  shuttingDown = true;          // まずReadinessを落として振り分けから外れる
  setTimeout(() => process.exit(0), 10000); // LBが外すのを待ってから終了
});

start();

FastAPI(Python)

import asyncio
from fastapi import FastAPI, Response
from contextlib import asynccontextmanager

state = {"ready": False}

@asynccontextmanager
async def lifespan(app: FastAPI):
    await db.connect()            # 起動処理
    state["ready"] = True
    yield
    state["ready"] = False        # 終了時はまずReadinessを落とす
    await asyncio.sleep(5)
    await db.disconnect()

app = FastAPI(lifespan=lifespan)

@app.get("/health/live")
async def live():
    return {"status": "ok"}

@app.get("/health/ready")
async def ready(response: Response):
    if not state["ready"]:
        response.status_code = 503
        return {"status": "not ready"}
    return {"status": "ready"}

@app.get("/health/deep")
async def deep(response: Response):
    try:
        await asyncio.wait_for(db.fetch_one("SELECT 1"), timeout=2.0)
        return {"status": "ok", "db": "ok"}
    except Exception as e:
        response.status_code = 503
        return {"status": "degraded", "db": str(e)}

Kubernetes側の設定例

閾値は「一時的な遅延で誤判定しないが、本当に壊れたら数十秒以内に検知する」バランスで決めます。failureThreshold×periodSecondsが「異常と判定するまでの時間」です。

containers:
  - name: app
    startupProbe:
      httpGet: { path: /health/live, port: 3000 }
      periodSeconds: 5
      failureThreshold: 30       # 起動に最大150秒まで猶予
    livenessProbe:
      httpGet: { path: /health/live, port: 3000 }
      periodSeconds: 10
      timeoutSeconds: 2
      failureThreshold: 3        # 30秒応答なしで再起動
    readinessProbe:
      httpGet: { path: /health/ready, port: 3000 }
      periodSeconds: 5
      timeoutSeconds: 2
      failureThreshold: 2        # 10秒で振り分けから外す
      successThreshold: 1

トラブル事例:DBの短い遅延で全台が再起動ループに入った

症状

夜間バッチの実行中にDBの応答が数秒遅くなったタイミングで、Kubernetes上のAPIサーバー全Podが同時に再起動を始め、サービスが約20分間断続的に503を返しました。DBの遅延自体は2〜3分で収まっていたにもかかわらず、復旧に時間がかかりました。

原因

livenessProbe/healthを指定しており、このエンドポイントはDBへSELECT 1を発行する深いチェックでした。timeoutSecondsは1秒、failureThresholdは3だったため、DBの応答が1秒を超える状態が30秒続いた時点で全Podが「死亡」と判定され、一斉に再起動されました。再起動したPodは起動時に一斉にDBへ接続し、それがDBの負荷を押し上げてさらに遅延を伸ばし、次のLivenessも失敗するというループに陥りました。

対処

  1. Livenessを、依存先を見ない/health/liveに変更した。DBの遅延では再起動されなくなった。
  2. Readinessは/health/ready(起動完了フラグのみ)にし、深いチェックは監視ツールからのアラート専用にした。
  3. timeoutSecondsを2秒、failureThresholdを3に見直し、一時的な遅延で振り分けから外れにくくした。
  4. 起動時のDB接続にジッター付きの待機を入れ、全Podが同時に接続を張らないようにした。

変更後、同様のDB遅延が起きた際は、深いチェックのアラートで人間が気づいただけで、Podの再起動もユーザー影響も発生しませんでした。

まとめ

ヘルスチェックは「200を返すエンドポイント」ではなく、「ロードバランサーとオーケストレーターに何を判断させるか」の設計です。Livenessは再起動の判断なので依存先を見ずプロセス自身の状態だけを返す。Readinessはトラフィックを流すかの判断なので、起動完了とシャットダウン中の状態を正確に返す。DBなどの深いチェックは「外して改善するか」で判断し、迷ったら別エンドポイントにして監視用に使う。この3点を守るだけで、「DBが少し遅くなっただけで全台ダウン」という事故はほぼ防げます。

ヘルスチェックの見直しや、コンテナ環境での自動復旧が期待どおり動かない問題の切り分けは、Harmonic Societyのシステム開発・インフラ支援にご相談ください。

#ヘルスチェック#Readiness#Liveness#運用

Harmonic Society

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