デジタルツインは、現実社会で起きている状況をインターネット上の仮想空間で再現する仕組みのことです。今回は、デジタルツインの仕組みやメリットについて解説します。
「デジタルツインで何を得られるのか」を調べている企業のマーケティングご担当は、ヒントとしてお役立てください。
デジタルツインの意味
デジタルツイン(Digital Twin)は、現実空間の情報や状況などをコンピュータ上の仮想空間で再現する技術です。総務省サイトの「インターネットの活用」では、2002年に米国ミシガン大学のマイケル・グリーブス博士の提唱から始まったとのこと。現実空間で起きることを双子のように再現するデジタル処理技術がデジタルツイン(デジタルの双子)と呼ばれています。
出典:総務省「インターネットの活用|デジタルツインって何?」
デジタルツインの仕組み
デジタルツインの仕組みは、現実空間と仮想空間を連動する3つの取り組みで成り立っています。
リアルデータの収集
デジタルツインは、現実空間のリアルデータを収集し仮想空間上で再現します。現実空間で行う施策を仮想空間で再現するためには、リアルデータの収集が必要です。
データの分析およびシミュレーション
収集したリアルデータは、現実空間と同じ環境を再現した仮想空間上でテスト運用します。テスト運用は、収集したリアルデータの分析やシミュレーションの実行データを生み出します。
現実空間にフィードバック
仮想空間上のテストから生み出したデータは、現実空間にフィードバックします。デジタルツインの環境は、現実空間に近い状況で行うため、高い実現性を期待できるでしょう。
デジタルツインとシミュレーションの違い
デジタルツインとシミュレーションの違いは、次の点が考えられます。
シミュレーション | デジタルツイン | |
予測する環境 | 仮想空間のみ | 現実空間と仮想空間 |
予測の精度 | 現実空間とはかけ離れた予測 | 現実空間と連動しているためリアルタイム性の高い予測 |
シミュレーションについて国立国語研究所では、次のように説明しています。
「計算や模擬装置などにより、起こりうる状況を様々に想定して行う実験」
つまり、シミュレーションは予測した状況に対して想定した仮説で実証する取り組みです。
デジタルツインは、現実空間と連動して予測を立てられるため、シミュレーションより具体的な予測が立てられます。その予測から、可能性の高い問題の予知保全に役立つでしょう。
デジタルツインとメタバースの違い
仮想空間やそのサービスには、メタバースがあります。メタバースは、インターネット上に作られた3次元仮想空間のことです。
メタバースとデジタルツインは、仮想空間活用の共通点から混同されるかもしれません。その違いは、次のとおりです。
メタバース | デジタルツイン | |
仮想空間上に再現するもの | 現実空間や仮想空間 | 現実空間 |
目的 | 空間利用者同士のコミュニケーションの場として活用が主流 | 現実空間で実行が難しいものを仮想空間上で再現する取り組み |
メタバースは、仮想空間そのものを意味し、デジタルツインは現実空間と連動した仮想空間を活用する取り組みではないでしょうか。
適用範囲ごとに存在するデジタルツイン
デジタルツインは、実行対象の適用範囲ごとにタイプが異なります。最小単位となるコンポーネント・ツインやシステム全体をまとめるプロセス・ツインなどがあります。
デジタルツインのタイプ | 特徴・役割 |
コンポーネント・ツイン(パーツ・ツイン) | ・デジタルツインの基本単位となるタイプ ・最小単位で機能するコンポーネント |
資産ツイン | ・複数のコンポーネントの連動により形成される資産タイプ ・コンポーネント間の相互作用を分析 ・豊富な特性データを作成 |
システム・ツイン(ユニット・ツイン) | ・異なる資産ツインを組み合わせるタイプ ・システム全体の形成状況を確認可能 ・資産の相互作用の可視化 ・性能の強化ポイントを指摘 |
プロセス・ツイン | ・複数のデジタルツインをまとめるタイプ ・生産設備全体のシステム構築を可視化 ・全体に影響を及ぼす正確なタイミングとスキームの決定に役立つ |
デジタルツインを活用するメリット
デジタルツインは、現実空間を仮想空間上で再現するデジタル技術です。その技術のメリットを大幅に得られる業種には、製造業があげられます。従来の製造業では、現実空間で生産プロセスの行き戻りを経て完成品を生み出せます。その状況からデジタルツインを活用した場合は、次のメリットが期待できるでしょう。
試作期間を短縮できる
現実空間で行う製品の試作は、作業員の配置や手順などを変更しながら何度もくり返す必要があります。その施策にかかる時間や費用コストが負担となるでしょう。デジタルツインによる仮想空間の活用は、現実空間で実行する手間や時間の短縮が可能です。
仮想空間上での再現は、現実空間から収集した情報のデータ化で成り立っています。そのため、配置や手順変更などの手間や時間を減らせます。結果的に、試作期間の短縮が期待できるでしょう。
品質向上を実現できる
デジタルツインは、試作作業を短縮できることから、品質の向上に向けて手間や時間がかけられます。人や時間を基準とする試作では、トライアンドエラーの回数に妥協(だきょう)するかもしれません。
仮想空間上で行われるデジタルツインでは、容易にできる分、トライアンドエラーの追求が可能です。試作の精度が上がれば、小さな問題点を検出し改善できます。それにより、完成品の品質向上を実現できるでしょう。
予知保全に役立つ
デジタルツインは、仮想上だけで行うシミュレーションよりも精度の予知保全ができます。その理由は、現実空間で発生しているリアルデータと連動できるからです。EV(電気自動車)による自動運転では、車両に組み込まれた複数のセンサーが車両の状態をあらゆるデータから感知します。
- 天候状況
- 道路状況
- 車両状態
これらの状態から、リアルタイムに危険を予知すれば、安全な自動運転が実現できます。デジタルツインは、現実空間の膨大なデータを活用して仮想空間上に再現する技術です。そのため、仮想空間上でリスクを検出でき、予知保全に役立てられます。
遠隔支援や技能伝達に活用できる
デジタルツインは、現場に出向かずに遠隔支援や技能伝達を行えます。遠隔支援では、デジタルツイン技術を遠隔診療などにも活用できます。診察患者と交わすリアルデータから、その場にいなくても仮想空間上で判断して適切な対応を提供できるでしょう。
現実空間を仮想空間上で再現する仕組みは、技能伝達にも役立ちます。製造業の生産現場を仮想空間上に再現できれば、遠隔からのリアルタイムな確認が可能です。また、膨大な現場データの蓄積は技能継承で伝えるべき内容を充実させられます。
デジタルツイン導入の課題
デジタルツイン導入は、メリットばかりではなく課題も考えられます。デジタルツインの実現に向けてデジタル技術を導入する場合は、技術導入コストや導入期間が必要です。
そのため、デジタルツインの導入後はコスト削減などを期待できますが、導入時の初期コストが課題となります。また、現実空間の環境を「どこまで再現するか」という求める品質によっても技術コストや導入期間が変わってくるでしょう。
デジタルツインのスケールを大きくして、時間とコストばかりかけてしまうと目的達成まで体力が持たないことも考えられます。その際は、デジタルツインで優先的に達成すべき目的を絞り込み、その目的に適した技術導入で取り組みましょう。
デジタルツインの導入に欠かせないデジタル技術
デジタルツインの導入には、欠かせないデジタル技術があります。現実空間の状態を仮想空間上で再現し、現実空間へフィードバックする仕組みには、次のデジタル技術が必要です。
IoT(モノのインターネット)
現実空間の情報は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の活用で仮想空間の精度を高めます。IoT技術の活用は、あらゆるモノ(自動車や電化製品など)をインターネットでつなぎリアルタイムに発生するデータ収集が可能です。
収集されたデータは、仮想空間上で現実空間を再現するために活用します。製造業の現場では、IoTデバイスのカメラやセンサーなどを介して以下の情報収集が可能です。
- カメラ:画像(静止画、動画)
- センサー:温度/湿度・速度・振動など
IoTは、これらのデータを収集し仮想空間上で再現する役割があるため、デジタルツインに欠かせないデジタル技術と考えられます。
5G(第5世代移動通信システム)
IoT技術には、現実空間の状況を仮想空間に正しく伝えるため、インターネット回線の精度が求められます。5G(第5世代移動通信システム)は、IoT技術に欠かせない移動通信システムです。5Gを活用することで次の送受信が期待できます。
5Gの特徴 | 5G |
高速大容量 | ・2時間映画の動画データを数秒でダウンロード ・4Gの20倍の通信速度 |
超低遅延 | クラウド環境の通信遅延を低減 遅延時間が4Gの10分の1 |
多数端末の同時接続 | ・モバイル端末をはじめ家電やウエアラブルデバイスの同時接続が可能 ・4Gの10倍のデバイスを同時接続可能 |
データ参照:SoftBank「5Gと4Gで何が変わる?何ができる?」
5Gは、2020年春より商用化されました。総務省の「平成30年版情報通信白書」によると、5Gの活用は100個程度の機器やセンサーのインターネット同時接続が可能という見解です。
データ参照元:総務省「平成30年版情報通信白書」
たとえば、5Gの活用は製造業の生産現場でも活用されます。5Gは、作業記録の動画データを遅延なく送信できます。データ送信が円滑になることで、自動運転や遠隔医療などさまざまな産業の変革に役立つでしょう。
AI(人工知能)
IoT技術を駆使して収集した現実空間のリアルデータは、5Gを通して高速かつ大量に送受信できます。その膨大なデータは、AI(人工知能)の情報処理能力により高精度の分析が可能です。AIは、人の知能を人工的に再現するために活用します。仮想空間上であつかう膨大なデータ分析は、AIの機械学習や深層学習(ディープラーニングが必要です。
AIは、膨大なデータ量の分析から精度の高い予測を立てられます。そのため、デジタルツインのメリットでも紹介した予知保全に欠かせないデジタル技術です。
AR・VR
デジタルツインで仮想空間を再現するには、五感に訴える要素も必要です。その役割は、AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)が担っています。ARやVRは、仮想空間上で視覚的だけではなく聴覚や触覚なども再現できます。活用することで、現実空間から収集したデータの臨場感を高め遠隔操作で行われる技能伝達などに効果が期待できるでしょう。
CAE
デジタルツインは、仮想空間上で実行予定の計画をシミュレーションできます。シミュレーションの方法では、製品の設計や開発工程をコンピュータ上で行う技術があります。その技術がCAE(Computer Aided Engineering)です。
CAEは、仮想空間上の工学的な部分を再現します。シミュレーション設計では、既存技術として活用されています。IoTや5Gの登場により、デジタルツインでも注目される設計技術です。
デジタルツインの発電分野における活用事例
デジタルツインは、あらゆる産業で活用されています。そのひとつとして、経済産業省で公開するデジタルツインの活用事例を紹介します。
ICT技術のインダストリアル・インターネットサービスを提供するゼネラル・エレクトリック社(GE)は、産業用インターネットサービスとビッグデータを活用したソフトウエアシステム「デジタル・ウインド・ファーム」は、再生エネルギーのコスト低減に取り組みました。
同社の取り組みでは、デジタルツインの仕組みが取り入れられています。クラウド上の仮想空間に発電システムを再現し、各発電機で20種類の項目から分析・シミュレーションが行われました。その中からもっとも効率の良い設計を現実空間で採用する仕組みの構築です。
「デジタル・ウインド・ファーム」の構築により、各発電機のタービンをセンサーで感知する違いごとに最適な状態でカスタマイズできるようになりました。
まとめ
デジタルツインは、現実空間と仮想空間を双子のように連動させるデジタル技術です。その活用の場は、製造業のみならず自動車業界や医療業界、都市計画など幅広い産業を対象にしています。
デジタルツインは、取り組みを支えるデジタル技術の進化により無限の可能性を追求できるでしょう。導入により、品質向上や予知保全などのメリットも期待できます。それらのメリットを得るには、目的を絞り込むことが大事です。実行途中で達成したい目的を増やさず、目的を絞って仮想空間上で正しく分析・シミュレーションすることをおすすめします。
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