起業家が知るべき労働法の基礎|雇用契約・労働時間・最低賃金のルール

kento_morota 9分で読めます
千葉のホームページ制作、30分の無料相談から。 相談 →
目次

起業して従業員を雇う際、労働法の知識は避けて通れません。「知らなかった」では済まされず、違反すれば罰則だけでなく、採用した人材との信頼関係が壊れ、事業そのものに悪影響を及ぼします。

本記事では、起業家・経営者が最低限知っておくべき労働法の基礎知識を、実務で使えるレベルで体系的に解説します。雇用契約書の作成方法、労働時間の管理ルール、最低賃金、社会保険の加入義務まで、初めて人を雇う経営者が押さえるべきポイントを網羅しています。

雇用契約書(労働条件通知書)の作成ルール

従業員を雇用する際、労働条件を書面で明示することが労働基準法第15条で義務付けられています。口頭での合意だけでは法的要件を満たしません。2019年4月からは、労働者が希望すればメールやSNSでの通知も可能になりましたが、書面で交付するのが最も確実です。

必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)

以下の項目は、雇用契約の締結時に必ず書面で明示する必要があります。

  • 契約期間:期間の定めがあるか、ないか。有期の場合は更新の基準
  • 就業場所と従事すべき業務:勤務地とメインの業務内容
  • 労働時間に関する事項:始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合はその詳細
  • 賃金に関する事項:賃金の決定方法、計算方法、支払方法、締切日と支払日、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項:退職の手続き、解雇の事由

雇用契約書作成の実務ポイント

テンプレートをそのまま使い回すのではなく、自社の実態に合わせてカスタマイズすることが重要です。特に以下の点に注意しましょう。

  • 試用期間の明記:試用期間を設ける場合は、その期間と条件を明記します。試用期間中でも労働基準法は適用されるため、14日を超えて使用した場合は解雇予告が必要です。
  • 業務内容の記載範囲:スタートアップでは業務内容が変わりやすいため、「その他、会社が指定する業務」という包括的な条項を入れておくと運用しやすくなります。
  • 秘密保持条項:雇用契約とは別に秘密保持契約(NDA)を締結するか、契約書内に秘密保持条項を盛り込みましょう。

労働時間のルールと管理方法

労働時間に関するルールは、労働基準法の中でも特に重要な領域です。違反すると罰則の対象になるだけでなく、未払い残業代の請求リスクも抱えることになります。

法定労働時間と所定労働時間

法定労働時間は、労働基準法で定められた上限で、1日8時間・週40時間です。これを超えて労働させる場合は、36協定の締結と届出が必要であり、割増賃金の支払い義務が発生します。

所定労働時間は、会社が就業規則や雇用契約で定めた労働時間です。法定労働時間以内であれば自由に設定できます。たとえば、1日7時間・週35時間と定めることも可能です。

36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)

法定労働時間を超えて従業員を働かせる場合、労使間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。36協定を結ばずに残業をさせると、労働基準法違反(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)になります。

36協定で定める時間外労働の上限は以下の通りです。

  • 原則:月45時間・年360時間
  • 特別条項:臨時的な特別の事情がある場合に限り、年720時間・単月100時間未満(休日労働含む)・2~6か月平均80時間以内(休日労働含む)

割増賃金の計算方法

時間外労働には割増賃金の支払いが必要です。割増率は以下の通りです。

  • 時間外労働(法定労働時間超):25%以上
  • 深夜労働(22時~5時):25%以上
  • 休日労働(法定休日):35%以上
  • 月60時間超の時間外労働:50%以上(中小企業も2023年4月から適用)

たとえば、時間単価が2,000円の従業員が深夜に時間外労働をした場合、2,000円×1.5(時間外25%+深夜25%)=3,000円の賃金が発生します。

スタートアップ向け:柔軟な労働時間制度

固定的な9時~18時の勤務体制が合わないスタートアップでは、以下の制度の活用を検討しましょう。

  • フレックスタイム制:コアタイム(必ず勤務する時間帯)を設定し、それ以外は従業員が始業・終業時刻を自由に決められる制度。労使協定の締結が必要です。
  • 事業場外みなし労働時間制:外回り営業など、労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間働いたものとみなす制度。
  • 裁量労働制:業務の遂行方法を労働者の裁量に委ねる制度。専門業務型と企画業務型があり、導入には厳格な要件があります。

最低賃金と賃金支払いのルール

賃金に関するルールは、従業員の生活に直結するため、特に厳格に遵守する必要があります。

最低賃金の仕組み

最低賃金法により、都道府県ごとに時間あたりの最低賃金が定められています。2025年度の全国加重平均は1,055円で、東京都は1,163円です。最低賃金は毎年10月頃に改定されるため、定期的に確認が必要です。

最低賃金の計算にあたっては、以下の手当は除外されます。

  • 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
  • 時間外・休日・深夜労働の割増賃金
  • 臨時に支払われる賃金(賞与など)

月給制の場合、月給÷月の所定労働時間で時間あたり賃金を算出し、最低賃金を下回っていないか確認しましょう。

賃金支払いの5原則

労働基準法第24条では、賃金の支払いについて5つの原則が定められています。

  • 通貨払いの原則:日本円の通貨で支払う(銀行振込は労働者の同意があれば可)
  • 直接払いの原則:労働者本人に直接支払う
  • 全額払いの原則:賃金は全額支払う(法令に基づく控除、労使協定に基づく控除は可)
  • 毎月1回以上の原則:毎月少なくとも1回は支払う
  • 一定期日払いの原則:毎月決まった日に支払う

休日・休暇に関するルール

従業員の休日と休暇についても、法律で明確に規定されています。

法定休日と所定休日

法定休日は、労働基準法で定められた最低限の休日で、毎週少なくとも1日、または4週を通じて4日以上の休日を与える義務があります。

多くの企業では、法定休日に加えて所定休日(会社が任意に定める休日)を設けて、週休2日制としています。なお、法定休日に労働させた場合は35%の割増賃金が必要ですが、所定休日の労働は法定労働時間を超えた分のみ25%の割増が必要です。

年次有給休暇

雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員には、10日の有給休暇を付与する義務があります。その後は1年ごとに付与日数が増え、6年6か月以上で20日が上限となります。

2019年4月からは、年10日以上の有給休暇が付与される従業員には、年5日以上の有給休暇を取得させる義務が使用者に課されています。この義務に違反すると、従業員1人につき30万円以下の罰金が科されます。

社会保険・労働保険の加入義務

法人を設立した場合、従業員数に関わらず社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務があります。個人事業主の場合は、従業員5人以上で加入義務が発生します。

社会保険(健康保険・厚生年金)

法人の場合、代表者1名のみの会社でも社会保険への加入は義務です。保険料は会社と従業員で折半し、会社負担分は給与の約15%程度になります。

加入手続きは以下の通りです。

  • 会社設立時:年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出
  • 従業員の入社時:入社日から5日以内に「被保険者資格取得届」を提出
  • 扶養家族がいる場合:「被扶養者(異動)届」を提出

労働保険(雇用保険・労災保険)

労災保険は、1人でも従業員を雇用したら加入が義務です。保険料は全額事業主負担で、業種によって料率が異なります(0.25%~8.8%)。

雇用保険は、週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがある従業員が対象です。保険料は事業主と従業員の双方が負担します。

手続きは以下の通りです。

  • 労働基準監督署に「労働保険関係成立届」と「概算保険料申告書」を提出
  • ハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を提出

解雇・退職に関するルール

日本の労働法は労働者保護の観点から、解雇に対して厳しい規制を設けています。起業家が最も誤解しやすい領域の一つです。

解雇の制限

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効です(労働契約法第16条)。つまり、「気に入らないから辞めてもらう」「業績が少し悪いから解雇する」といった理由では解雇できません。

解雇が認められるケースとしては以下があります。

  • 重大な業務命令違反や服務規律違反
  • 著しい能力不足(十分な指導・改善機会を与えた上で)
  • 整理解雇(経営上の必要性が高く、4要件を満たす場合)

解雇予告の義務

解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。たとえば、15日前に予告した場合は、残り15日分の平均賃金を支払えば解雇が可能です。

退職時の手続き

従業員が退職する際には、以下の手続きが必要です。

  • 社会保険の資格喪失届(退職日の翌日から5日以内)
  • 雇用保険の資格喪失届と離職証明書(退職日の翌日から10日以内)
  • 源泉徴収票の交付
  • 退職証明書の交付(労働者から請求があった場合)

まとめ:労働法の基礎を押さえて安心して人を雇う

労働法は複雑に見えますが、基礎的なルールを理解しておけば、大きなトラブルは防げます。本記事の要点をまとめます。

  • 雇用契約書は法律上の義務。絶対的明示事項を漏れなく記載する
  • 労働時間は1日8時間・週40時間が上限。超える場合は36協定が必須
  • 最低賃金は都道府県ごとに定められ、毎年改定される
  • 社会保険は法人なら従業員数に関わらず加入義務あり
  • 解雇は厳しく制限されている。合理的理由と30日前の予告が必要

不安がある場合は、社会保険労務士に相談することをおすすめします。月額数万円の顧問料で、労務トラブルのリスクを大幅に軽減できます。正しい知識を持って、安心して事業の成長に集中しましょう。

#労働法#雇用契約#起業
ManageAI 先行モニター企業 募集中|先着5社・2026年11月末まで

生成AIの利用費、「誰が・何のために・いくら」まで見えていますか?

株式会社カイダンと共同開発したAI利用ガバナンスSaaS「ManageAI」は、OpenAI・Azure OpenAI・Claude・AWS Bedrock・Google Vertex AIの費用と利用状況を、部署・利用者・プロジェクト別に可視化します。導入は読み取り専用キーの登録だけ。初期費用0円・月額5万円(税別)で先行モニター企業を募集しています。

ニュースリリースを読む
共有:
無料メルマガ

週1回、最新の技術記事をお届け

AI・クラウド・開発の最新記事を毎週月曜にメールでお届けします。登録は無料、いつでも解除できます。

※ プライバシーポリシーに基づき管理します

関連記事

Related / 9 articles

  1. AI

    AIを使った文章の書き方 完全ガイド|文字起こしから構成・推敲までのワークフロー

    AIを使った文章の書き方を、文字起こしから構成・執筆・推敲までの6工程ワークフローで解説します。頼み方(プロンプト)の5部品、下書きと仕上げの分担、添削でのAIの使い方、事実確認は人が担うべき理由まで、任せてよい仕事と人が握るべき仕事の線引きを紹介します。

  2. AI

    文字起こしをAIで記事にする手順|インタビュー音声から原稿を作る実践ガイド

    取材やインタビューの文字起こしをAIで記事に変える手順を解説します。文字起こしの整形、発言の抽出、一番のニュースを決める構成づくり、下書きから仕上げまでの記事化の4ステップと、やってはいけないそのまま記事化の注意点、AIと人の役割分担まで紹介します。

  3. AI

    AIで文章を添削・推敲する方法|頼み方の例文と見落としやすい落とし穴

    AIに文章を添削してもらう実践手順を解説します。誤字・表記の機械的チェック、読みやすさを高める表現の改善、読者目線のレビューという3段階の頼み方例文、指摘を取捨選択するコツ、AI添削に任せてはいけない3つのこと、公開前のAI添削10分コースの実践フローまで紹介します。

  4. AI

    AIで文章の構成案を作る方法|書き出せない人のための「壁打ち」活用術

    AIで文章の構成案を作る方法と壁打ちの技術を解説します。素材を箇条書きで吐き出し、選んだ切り口で構成案を3案もらい、構成が決まったら本文は自分の言葉で書く3ステップに加え、壁打ちを深める質問の型と、構成案のもっともらしさに流されないための注意点を紹介します。

  5. AI

    文章作成プロンプトの書き方と型|AIから良い下書きを引き出す5つの部品

    AIに文章を書かせるプロンプトの書き方を解説。役割・読者・目的・条件・形式の5部品で組み立てる基本型、お知らせ・記事・お礼文などそのまま使えるテンプレート3種、出力を磨く追加注文のコツ、プロンプトより大事な材料の用意まで、実例つきで紹介します。

  6. AI

    ChatGPTの始め方|スマホだけでOK・無料での使い方を初心者向けに解説

    ChatGPTをスマホで始める手順を初心者向けに解説します。公式アプリの入手からアカウント作成、話しかけるまでの3ステップ、無料版でできること、最初に試したい使い方5つ、個人情報など入力してはいけないものを含む3つの注意点まで紹介し、今日から安心して使い始められます。

  7. AI

    AI電話対応(ボイスボット)とは?中小企業の電話業務を減らす導入ガイド

    電話の一次対応をAIに任せるAI電話対応(ボイスボット)を中小企業向けに解説します。従来のIVRとの違い、向いている定型・高頻度の電話と人が対応すべき電話の見分け方、導入の4ステップと効果の考え方、失敗しない運用ルール3つまで実務目線でまとめました。

  8. DX・業務効率化

    n8nとは?使い方と業務自動化の始め方|Zapierとの違いも解説

    セルフホストできる業務自動化ツール「n8n」を中小企業向けに解説。ノードをつなぐ仕組み、Zapierとの使い分け、AI連携で判断を含む業務まで自動化する方法、始めるための3ステップ、壊れたことに気づけないリスクへの注意点をまとめました。

  9. AI

    Difyとは?ノーコードで社内AIチャットボットを作る方法|中小企業向け入門

    プログラミング不要でAIチャットボットや業務アプリを作れるオープンソースツールDifyを解説。クラウド版とセルフホスト版の違い、機密データへの対応、社内規程FAQボットや定型文書ジェネレーターなど最初に作るべきアプリ、導入前の注意点を中小企業目線でまとめました。

ManageAI

先行モニター企業 募集中

生成AIのコストを「部署別」に、請求書より先に。

先着5社限定・2026年11月末まで。初期費用0円・月額5万円(税別)で、正式版と同等の機能に加え、開発者と伴走者による導入支援を追加費用なしで提供します。プロンプト原文は一切取得しません。

株式会社カイダン × Harmonic Society株式会社の共同事業|読み取り専用キーの登録だけで導入できます