STP分析とは、企業のマーケティング戦略の最適化に役立つフレームワークの1つです。STP分析によって自社の商品・サービスに適したターゲットを把握できるため、新たにビジネスを展開する際には欠かせない考え方といえます。
そこで今回は、企業のマーケティング担当者や経営層の方に向けて、STP分析の特徴やメリットを解説します。さらにSTP分析のやり方も具体的に紹介しますので、自社のマーケティング戦略を最適化したい方は、ぜひ参考にしてください。
STP分析とは「戦略立案に役立つフレームワーク」
STP分析は、マーケティング分析における「戦略立案」に役立つフレームワークです。フレームワークとは、情報の整理や分析、戦略立案の際に役立つ思考の枠組みを意味します。
STP分析では、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)という3つの要素を用いて、自社の商品・サービスのターゲットを把握します。
- Segmentation(セグメンテーション)~市場および顧客を細分化する
- Targeting(ターゲティング)~細分化した市場からターゲットを絞り込む
- Positioning(ポジショニング)~ターゲット市場における自社の優位性を把握して、他社と差別化する
各要素の詳しい意味や方法は、後述の「STP分析のやり方」で解説します。
STP分析の主な役割
マーケティング分析におけるSTP分析の主な役割は、マーケティング戦略の立案です。
自社の商材に適した市場や顧客を発見したり、自社の優位性を確認して他社との差別化を図ったりします。市場における有利なポジションを見つけて、利益拡大を目指すわけです。
マーケティング分析を活用した一連の流れがこちらです。
環境分析(PEST分析、5F分析、SWOT分析など)
↓
戦略立案(STP分析など)
↓
施策の立案(4P分析など)
上記のように、STP分析は環境分析と施策の立案の中間に位置づけることができます。
例えば、「環境分析」によって広い視点から自社を取り巻く事実関係を整理して、「戦略立案=STP分析」によって自社に適切な市場や顧客をターゲットにするといった方法も可能です。
STP分析によって、適切な顧客層や市場を絞り込めれば、企業のマーケティング活動は大きく成功に近づくでしょう。
STP分析を導入する3つのメリット
STP分析を導入するメリットを3つ紹介します。
自社に適切な顧客・市場を選べる
STP分析のセグメンテーションによって、不特定多数の顧客あるいは市場の中から、自社に適切な顧客や市場を絞り込めるようになります。
自社の商品やサービスとターゲットとのミスマッチを避けられれば、顧客が望む商品を届けられるようになるでしょう。
また、近年はインターネットやSNSの普及により、顧客の価値観や行動パターンも把握しやすくなりました。以前は追跡がむずかしかった行動変数や心理的変数といった指標もセグメンテーションの参考にできるため、多様化する顧客のニーズに対応しやすいという特徴もあるのです。
顧客ニーズを把握できる
STP分析では市場の分析を通して、顧客のニーズを具体的に把握できます。
顧客ニーズを把握することは、自社の商品・サービスに適切なターゲット像(ペルソナ)の作成にもつながります。ペルソナは、他のビジネスモデルに流用することも可能です。
ペルソナとは、ターゲット顧客をさらに分析することで作り上げた架空の人物像です。年齢・性別・仕事での役職、家族構成や趣味などを具体的に設定することにより、担当者間で共通した人物像を持ちたいときにも役立ちます。
ペルソナ例
名前 | 佐藤 悠人 | 年収 | 500万円 |
性別 | 男 | 住所 | 東京都 |
年齢 | 32歳 | 趣味 | サウナ通い |
仕事 | 大手文房具メーカー勤務 | 家族構成 | 妻と息子 |
自社の強みがわかり他社と差別化を図れる
STP分析では、ターゲット市場を絞り込むことで、競合他社との比較検討がやりやすくなります。
STP分析のポジショニングによって、商品・サービスの性能や価格などを比較できるため、他社よりすぐれている点を明らかにできるのです。
市場における自社の強みがわかれば、商品・サービスのプロモーションをどのように顧客層に届けていけばよいのかが明らかになり、ビジネスの成功も大きく近づくでしょう。
STP分析のやり方
STP分析には、以下の項目があります。
- セグメンテーション
- ターゲティング
- ポジショニング
それぞれの特徴とやり方をみていきましょう。
セグメンテーション
セグメンテーションとは、日本語で「区分」を意味しており、市場の顧客を分類して特定の属性に分けるプロセスを意味します。
商品・サービスのターゲットを「不特定多数」という設定はできません。まずはセグメンテーションによって市場や顧客を区分けして、ターゲット候補を見つけ出す必要があります。
ただし、漠然と区分けしても効果的な区分けにはつながらないため、「Rank」「Realistic」「Reach」「Response」という4つの視点を参考にするのがおすすめです。
<セグメンテーションにおける4R>
Rank(優先順位) | 重要度によって優先順位をつける項目 |
Realistic(規模の有効性) | 「自社にとって十分な売上を確保できるか?」「それだけの市場の規模があるかどうか」をチェックする項目 |
Reach(到達可能性) | 自社の商品・サービスやプロモーションについて「実際に顧客まで届けられるか?」「届けられるとしたらどのくらいの難易度になるのか」をチェックする項目 |
Response(測定可能性) | 「マーケティング後の反応を測定できるかどうか」をチェックする項目。市場の規模、顧客の購買力や特性などを測定する |
4つの視点を参考にしながら、市場や顧客を分類するための基準も確認しておきましょう。
分類するための指標(=変数)には、「人口動態変数」「地理的変数」「心理的変数」「行動変数」があります。それぞれの詳しい内容がこちらです。
変数名 | 項目 | 補足 |
人口動態変数(デモグラフィック変数) | 年齢・性別・職業、所得、家族構成・職業など | 人口動態変数は、統計調査などで確認できる |
地理的変数(ジオグラフィック変数) | 住んでいる地域(東日本、西日本など) 気候(気温、降水量など) その他(人口密度、文化、行動範囲など) | 地理的変数は、統計調査などで確認できる 気温や気候、生活習慣によって売れ行きが変わる商品(衣服、食料品、家電製品など)にも有効 |
心理的変数(サイコグラフィック変数) | 価値観やライフスタイル | 心理的変数は、アンケート調査やヒアリングによって聞き取りできる |
行動変数 | 使用状況や知識量 | 行動変数は、アンケート調査やヒアリングによって聞き取りできる |
例えば、ファッションブランドを展開する企業の場合、「ブランドを重要視する顧客」と「コスパを重要視する顧客」に分ける方法が考えられます。これは心理的変数の「価値観やライフスタイル」を基準にした場面です。
ブランドを重要視する顧客とコスパを重要視する顧客とでは、求める商品のコンセプトは異なりますよね。あらかじめ両者を区分けすることで、適切なプロモーションを届けられるようになるわけです。
また、行動変数の使用状況としては「毎日使用」「週末だけ使用」「朝だけ使用する」といった使用頻度が例に挙げられます。知識量は「深く理解している」「関心はあるが詳しくない」「知識はない」といった項目に分けると、新規顧客とリピーターの区分けができるでしょう。
ターゲティング
ターゲティングとは、セグメンテーションによって細分化した市場や顧客の中から、自社の商品・サービスに適切なターゲットを絞り込んでいくプロセスのことです。
「自社の商品・サービスのコンセプトに合っているかどうか」「自社の強みを発揮できるかどうか」といった視点を用いて、限られた経営資源を生かすために行います。
ターゲティングに効果的なマーケティング手法には「集中型マーケティング」「差別型マーケティング」「無差別型マーケティング」があります。それぞれの概要がこちらです。
マーケティング手法 | 概要 | 注意点 |
集中型マーケティング | 1つまたは少数の市場を選び、その市場に適した商品・サービスを集中して投下する手法。 | 市場を限定して経営資源を投下する分、高い利益効率を期待できる |
差別型マーケティング | 細分化した複数の市場において、それぞれのニーズに適した商品・サービスを展開する手法 | プロモーション費用や開発費などが膨大になる可能性がある |
無差別型マーケティング | 市場の違いに関わりなく、単一の商品を無差別に市場に投下する手法 | 市場を細分化してみても、どの顧客も同じニーズを持っている場合に効果的。認知度が非常に高い商材の場合に適用が向いている |
ポジショニング
ポジショニングとは、商品・サービスの性能や価格、品質などから、競合他社よりすぐれている点を確認するためのプロセスです。
自社の商品と競合他社との違いを明確に顧客層に示せれば、結果的に自社の商品・サービスを購入してくれる顧客が増えるでしょう。
ポジショニングでは、「ポジショニングマップ」の活用をおすすめします。
ポジショニングマップとは、平面の図表に縦軸と横軸を引いてグラフを作り、自社と競合他社のポジションを表したマップです。
縦軸と横軸に、顧客が重視するKBF(購買決定要因)を設定します。KBFの中でも、競合他社よりも自社が優位だと考えられる項目を選べば、市場における自社の優位性を確認できます。
例えば、ノートパソコンであれば「モニタのサイズ」「処理性能」「サポート体制」などはKBFに設定できます。より狭いターゲット層を選ぶなら、専門的な内容を設定する必要があるでしょう。
KBFを縦軸と横軸に設定したら、自社と競合をマップの中に書き出します。すると「自社は処理性能のあるパソコンを展開しておりサポート体制も強い」「競合のモニタ性能には、現時点でかなわないな」といったことが観測できるわけです。
ポジショニングマップを活用することで、自社の強みや差別化ポイントを可視化できるようになります。
自社の商品やサービスのポジションに適切な施策を立案・実行できるようになれば、顧客の心をつかむような販売戦略を展開できるでしょう。
STP分析の事例
STP分析の有名な事例を2つ紹介します。
ユニクロ
株式会社ユニクロは、高品質かつ低価格がウリのカジュアルブランド「ユニクロ」を提供している製造小売業です。
従来のアパレル業界では、「10代20代の若者と40代50代の中高年」「専業主婦と働く女性」といった人口動態変数を用いて、市場を細分化するケースが主流でした。
しかしユニクロは、人口動態変数よりも「顧客のニーズ」に注目してセグメンテーションを行いました。具体的には「安価で普段着にできる服が欲しい」「トレンドではなくても長く着られる服が欲しい」といった顧客のニーズに注目して、カジュアルでベーシックな商品を提供したのです。
誰でも購入できる価格設定と品質というコンセプトは、年齢や生活スタイルを問わない多くの顧客に受け入れられています。
パナソニック
もう1つの事例は、パナソニックの「レッツノート」です。
レッツノートとは、パナソニックが発売しているノートパソコンのシリーズ名です。現在はパナソニック コネクトが取り扱っています。
当時、PC市場では「インターネットを日常的に利用したい」という顧客層をターゲットにする企業が多く存在していました。
そのような中、パナソニックは法人需要にターゲットを絞り、外回りの営業に利用できるノートパソコンに注力して商品を開発したのです。
ビジネスシーンで活躍できるように「軽量」「バッテリーの駆動時間が長い」「頑丈」といった特徴のレッツノートを開発した結果、競合他社よりも優位性を築きました。
現在のレッツノートは、14.0型のコンパクトモバイル「FVシリーズ」をはじめとして、高性能かつコンパクトな12.4型の2in1モバイル「QRシリーズ」などを展開。スムーズな接客・商談を実施したい顧客層に効果的にアプローチしています。
STP分析は他のマーケティング分析と組み合わせる
冒頭でも紹介しましたが、STP分析は具体的な戦略立案に特化したマーケティング分析です。
もしも、環境分析や施策立案を具体的に進めたい場合は、別のマーケティング分析と組み合わせると、効率的にマーケティングを展開できるでしょう。
ぜひこの機会に他のマーケティング分析も確認していただき、自社のビジネス戦略の最適化に役立ててください。
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